[論説]農業と環境の共生 土に有機物を入れよう
農研機構によると、農地に有機物(炭素)を投入することで作物の収量は増加し、干ばつ被害を低減できるという。だが、それだけではない。世界各地で農地の土壌炭素量を毎年0・4%増やせば、将来的に大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の上昇を止められる可能性がある。
2015年、パリで開かれた国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で提唱された「4(フォー)パーミルイニシアチブ」という考え方で、同機構農業環境研究部門の白戸康人研究領域長は「土壌は大気の2倍、植物の3倍、炭素を貯蔵できる巨大なプール。少しの変動でも大きな影響を与える可能性がある。農地に炭素を貯留すれば増産が見込め、化学肥料を削減でき、水質改善や温暖化防止につながる」と強調する。土壌のCO2吸収量を計算するサイトも開発した。
現在、833の国や団体が賛同。国内では山梨県を中心に、JAと連携し果樹園での草生栽培や剪定枝を炭にして園地にまく栽培法が広がる。「やまなし4パーミル・イニシアチブ農産物」として認証された桃やブドウは、環境を意識して買い物をする消費者に訴求。農水省の環境保全型農業直接支払交付金などの対象となる。価格ではなく「価値」を適正に評価する機運を高めたい。
土に有機物を投入することは、微生物にとってもいい。微生物には作物と肥料を仲介する役目があり、多くの種類の微生物がいるほど連作障害や病気に強く、作物の根張りが良くなるという。
土づくりのレベルを“見える”化しようとDGCテクノロジー(茨城県つくば市)は、「土壌微生物多様性・活性値」の測定を通し、適切な施肥を提案する。国内外で2万サンプルの土を分析した横山和成チーフ研究員は「日本の農地土壌は群を抜いて豊か。豊かな土で作った農産物を生産・販売することで、人の健康にも貢献できる」とみる。
開催中の大阪・関西万博でも、パソナグループが「ワンダーアース~あなたの知らない微生物の世界」を紹介。土壌微生物の力を発信する。
家畜ふん尿、竹、剪定枝、米ぬか、もみ殻、家庭の生ごみ、食品廃棄物……。自治体主導で地域内の循環が生まれれば、環境と共生した持続可能な農業の未来が近づく。