
2023年産米の出回りは少ない。昨夏の猛暑の影響で精米の量が下振れし、産地では集荷量が伸び悩んだ。米の民間在庫も例年を下回る水準が続いており、農水省が公表した5月末時点の民間在庫量は前年比22%減の145万トンで、東日本大震災の混乱下にあった12年以来の低水準だ。
スポット市場は元々、米の全体流通量の数%を扱う小さな市場だが、今年は特に少なく、「売り手が出た瞬間に買い手が決まる」(取引関係者)状況が続く。
米の情報調査会社・米穀データバンクによると、スポット市場の相場は24年の年明け以降に急伸。主要銘柄の秋田「あきたこまち」は23年12月下旬に1万5700円だったが、みるみる上昇し、5カ月後には上昇幅が1万円に及んだ。
在庫不足で米の調達に奔走する業者間で米が取り合いになった。特に、飲食店などに米を卸す業者の供給責任は大きい。取引関係者は「われ先にと契約を急ぐ業者が多かった」と明かす。
スポット相場を過熱させたのは、在庫不足に苦しむ業者だけではない。利ざやでもうけようとするブローカーが先高感から米を出し渋り、品薄高に拍車をかけた。資金に余裕のある業者がスポット市場で米を調達し、不足感を訴える実需との新規取引につなげようとする動きもあった。
米業界からは戸惑いの声が上がる。東京都内の米穀店は「仕入れても赤字の金額」と不安視し、主産地の関係者は「出来秋の産地価格とあまりに懸け離れている」と驚く。
取引の大部分を占める相対取引を見ると、値動きは小さい。6月の全銘柄平均価格は1万5865円で、前年9月からの上げ幅は600円程度にとどまる。
業界の混乱を受けて、米卸でつくる全国米穀販売事業共済協同組合(全米販)は5月28日、高騰するスポット相場への注意喚起を会員米卸に発出した。文書では「上がった相場は必ず下がる」とし、冷静な対応を呼びかけた。ただ、7月に入ってもスポット相場は高止まりし、異例の水準が続いている。