農業教員の場合、1時限目の授業前や終業時間後に、栽培する作物の栽培や家畜の飼育などの実習や農場管理を担っている。授業のない休日も実施し、残業代のない教員にとって産業教育手当は、負担を金銭補償する意味が大きかった。
しかし、2003年に産業教育手当の権限が地方自治体に移されたのに伴い、条例で支給額を減額する都道府県が相次いだ。
国の経済財政の基本方針「骨太の方針2006」が教職員給与の縮減を図ると、この流れは加速。産業教育手当と、小中高教員の人材確保のための「義務教育等教員特別手当」(義務教手当)を同時受給する場合に、総額を減らす都道府県が続出した。
24年度当初時点で、産業教育手当が支給されているのは46都道府県。本来の水準の10%は山形県など4県だが、義務教手当と同時受給する場合、総額が減額される。最も多いのは5%で、鳥取県はゼロ%だった。
産業教育手当を毎月定額支給する府県もあるが、毎月の給料に占める割合を計算すると、神奈川県が最高9・77%だった他は、数%にとどまる。授業1こま当たり300円支給の島根県は、23年度の1人当たりの月額の最高支給額が1万5000円未満だった。
こうした状況を踏まえ、文部科学省は24年2月、産業教育手当の状況改善を求める通知を都道府県教育委員会に出した。給料月額の10%を普通交付税により措置しているとして、産業教育手当について適切に対応するよう促した。
だが、状況は改善されないため、農業高校が加盟する全国高等学校農場協会は6月、産業教育手当の10%復活を求める要望書を国に提出した。橋本智・全国高等学校農場協会長は、「地域にとって農業高校は地元の農業者や地域の産業の担い手育成でかなり大きな役割を果たしている。それを支える農業教員の質確保のためにも、本来の10%を復活させてほしい」と話している。
[ことば]産業教育手当 農業、水産、工業、商船の産業教育に従事する公立高校教員と実習助手の勤務の特殊性に配慮して支給。1957年に法制化され、農業は70年に給料の7%から10%に引き上げられた。
