[論説]米需給緩和の恐れ 農家への打撃回避せよ
小泉進次郎農相は就任後、米離れを防ごうと米価下落を最優先課題に据える。政府備蓄米の売り渡し方法も入札から、随意契約に変更。放出した備蓄米は入札した31万トンに随意契約の50万トンが加わり、総量は81万トンに及ぶ。小泉農相は需給を「じゃぶじゃぶにしないといけない」と述べ、価格を下げる姿勢を鮮明にする。スーパーでは2000円台の備蓄米が出回り、安い米を求める消費者からは一定の支持を獲得しているようだ。
米の需給見通しに備蓄米の放出量、2025年産の生産量や増産分を加えると、来年6月末の民間在庫量は295万トンに達する。業界の適正水準(180万~200万トン)を約100万トン超過し需給が大幅に緩和する公算だ。
懸念されるのが、米価が下落した際のセーフティーネットがもろい点だ。政府は農家の減収分を穴埋めするために収入保険を推奨するが、十分機能しない可能性が高い。収入保険の加入面積は、23年産水稲で約40万ヘクタールで加入率が3割にとどまる。農家所得が低迷する中で保険料の負担が生じ、青色申告をしなければ加入できず、ハードルは高い。
保険加入者でも、25年産は十分な補填を受けらない可能性が高い。制度では、保険期間の収入が基準を下回った場合、最大9割が補填される。基準収入は、過去5年間の平均収入を基本とするが、25年産の場合、米価が低迷していた時期も含まれる。米の専業農家で、25年産の販売収入で補填が出る基準を試算すると、60キロ1万3000円弱。米価が同1万円まで下落し、基準を下回っても補填金は3000円程度となる。農水省によると、米生産費は同1万5948円(23年産)で再生産可能な価格を割り込む可能性があり、収入保険も万能とはいえない。
米価の大幅下落を回避するために、講じる手だてはある。国の責任で備蓄米を放出したのなら、過剰見通しとなる民間在庫の米も隔離することだ。需給を見極め、備蓄米として買い上げる国産米を増やすことを検討すべきだ。
小泉農相は衆院農林水産委員会で、政府備蓄米の放出による米価への介入を巡り、暴落時の対応を問われ「当然」と応じた。備蓄米放出で国が保有する在庫量がわずかになった中、穴埋めは輸入米でなく国産米で対処すべきだ。農家の経営安定策が急がれる。