本紙は11月上中旬にカナダのトロントとバンクーバーにあるスーパーの複数店舗で調査した。あるアジア系スーパーでは、日本産を模した表示の外国産米が売り場に広がっていた。商品の表示を見ると、「こしひかり」「ひとめぼれ」といった日本で育成者権が切れて米国で生産された品種がひらがなで表記してあった。「あきたおとめ」といった日本で聞き慣れない銘柄もある。商品のキャッチフレーズまで「手軽にふっくら」「うまさ贅沢、気品ある極上食味」「早炊き玄米」など日本語が目立つ。
こうした日本産風の表示は、カリフォルニア産などのジャポニカ種を中心に散見された。生産国は表面だけ見ても分からない商品が多い。裏側の「PRODUCT OF USA」などとした表記でようやく確認できる。
〝本家〟日本産は扱い限定的
バンクーバーの米穀販売業者に聞くと、「高品質で安全である日本ブランドを前面に出した外国産米のイメージ戦略は北米でも広がっている。ベトナム産や中国産であえて日本語表示をする商品もある。日本人であっても日本産だと勘違いするようなパッケージで、日本人以外だと区別が難しい」と指摘する。現地の消費者は「日本産米を買おうとする際、どのように選んだら良いのか正直分からない」(トロント近郊在住の女性)と戸惑いの声も聞かれた。
“まるで日本米”が海外の売り場に広がる一方、本家の日本産米は、日系スーパーなどを除いた店舗での扱いは限られており、隅に追いやられている。日本は米を輸出拡大の余地が大きい重点品目に位置付けているが、日本産を模した外国産米との競合は大きな課題となる。
安価な外国産と競合
世界の米生産量は精米換算で約5億トンとされ、インディカ米(長粒種)が8割、ジャポニカ米(短粒・中粒種)が2割を占めるという。日本産米が輸出で挑むのは国外のジャポニカ米市場だ。現状、日本からの輸出量は増加傾向にあるが、まだ4万トン程度。一方で、競合する米国産米の輸出量は約300万トンで、カリフォルニア産などの短粒・中粒種を多く含む。既にすしの原料米では、こうした日本産米以外が席巻している。
「カルローズ」(カリフォルニア産米の通称)は、グレードの高いものから低いものまで幅広く、価格もまちまちだが、総じて日本産より安い傾向だ。カナダ・バンクーバーのスーパーでは6・8キロ入りのカルローズが「特別価格」として約14ドル(約1500円)で並んでいた。同じ店で扱う日本産の「あきたこまち」や「ミルキークイーン」はいずれも23年産5キロ入りで4500円前後だった。
量と価格で優位に立つカリフォルニア産などのジャポニカ米が、表示でも日本産風を取り入れる戦略がトレンドになっている。漢字、ひらがな、カタカナ表記で日本産風を演じているが、産地を偽装している訳ではない。商標上は問題ないため、たとえ誤解を招く表示があっても、日本では対応できないのが実態だという。
日本の米輸出団体も問題意識を持っていた。全日本コメ・コメ関連食品輸出促進協議会は「カリフォルニア産などは日本語表記の銘柄も多く、区別がつかない」と認識する。そのうえで、海外で売り込む日本産米独自の統一ロゴマークを制作。会員が商品に印刷やシール貼付して、品質や安全性をPRする。ただ、コストや手間の課題もあり「まだ十分に浸透していない」としている。
今回の海外市場調査には産地関係者も参加した。長野県のJA関係者は「海外の店頭にただ並べるだけでは勝負できない。農家が適切に所得を確保するためには、価格競争ではなく、品質面を含めた日本産の価値提案と、それを評価してくれる取引先の開拓が重要だ」と冷静に見ていた。
(宗和知克)
▽日本語がデザインされた米袋▽