暖冬などを背景に、昨年は全国で果樹カメムシ類が多発した。その他にも、水稲では斑点米カメムシ類、野菜類ではハスモンヨトウなどのチョウ目が多発。いずれも発生量の増加や長期化が指摘される。その他、雑草ナガエツルノゲイトウやクビアカツヤカミキリなど分布が拡大する外来種への対応も課題だ。一方、化学農薬への依存によって薬剤抵抗性を獲得した病害虫・雑草が顕在化し、十分な防除効果を得られない事例もある。担い手が減る中でもこれらの問題に対処するため、農水省は化学農薬だけに依存しない、効果的で低コスト、持続的なIPMに移行する必要があるとみている。
2023年に施行された改正植物防疫法では「総合防除」が定義され、国が基本的な指針を定めた上で、各県に総合防除計画を作成するよう求めた。24年に施行された改正食料・農業・農村基本法では、病害虫防除のうちIPMにおける予察と予防の重要性を明示。これらを踏まえて同省はIPMの普及に向けて、専門家会合で新しい実践指針の内容を検討している。今年度中にIPMの目的や推進の方向性などを実践指針として示す。

天敵で化学農薬半減
総合防除の選択肢の一つが天敵の活用だ。熊本県宇城地域振興局は、キュウリの抑制栽培で、退緑黄化病を媒介するタバココナジラミの天敵を導入すると、同病の発生を抑えられるという調査結果をまとめた。スワルスキーカブリダニとリモニカスカブリダニの製剤を導入すると、化学農薬の薬剤数が半分以下に抑えられ、防除費用を10アール当たり2万~4万円ほど減らせる。タバココナジラミの密度も減少したとする。
退緑黄化病は、発病すると葉が黄色になり、品質低下や減収などにつながる。同振興局がある宇城地域では、タバココナジラミの薬剤抵抗性の発達で化学農薬が効かなくなるという課題があった。調査では、化学農薬と2種類の天敵を使った。
化学農薬だけ使用した区では、12月中旬に、圃場(ほじょう)の半分以上の株が同病にかかっていた。天敵を導入することで、発病はしたものの12月中旬まで発病率を27%に抑えられた。発病を1カ月ほど遅らせられたことで「約1カ月半分の増収につながる」(農林部農業普及・振興課)とする。7月に定植するキュウリの促成栽培でも同様の調査を実施。同病の発生を抑えられた。
(後藤真唯子、南徳絵)
■IPMとは
Integrated Pest Managementの略。「総合的病害虫・雑草管理」と訳される(改正植物防疫法では「総合防除」)。費用対効果があり、人と環境に負荷の少ない手法を組み合わせて防除すること。化学農薬以外にも、抵抗性品種や天敵生物・天然由来の農薬の活用などがある。発生しにくい環境を整え、発生予察情報などを基に要否を判断し、適切な時期に防除することを国は求めている。
環境負荷軽減につながる農業技術・政策を解説する「みどりワード」を毎月第1月曜日に掲載します。