(2016年6月)22日公示の参院選では、安倍政権が進めた農政改革の是非が争点になる。自民、民進両党の農政の若手キーパーソン、小泉進次郎氏と玉木雄一郎氏に、環太平洋連携協定(TPP)や農協改革、米政策などの主要課題をテーマに討論してもらい、論点を浮き彫りにした。農業の将来像を展望し、与野党で共有すべき政策の土台についても探った。(司会は編集局長・田宮和史郎)
TPP
――TPPの審議が、臨時国会に先送りになりました。どう対応しますか。
小泉氏 通常国会で承認に至らなかったのは残念だ。TPPに大きな戦略的価値があることは多くの人が共有していると思う。しっかりと理解を得た上で、次の国会で発効に向けた日本の責任を果たしていきたい。
農家の不安と向き合うことが大前提だ。環境は変わっても大丈夫だと思ってもらえる対策をしていく。一方、国内だけを見ていたら人口減と高齢化で需要は減る。海外の市場を狙い、TPPをむしろチャンスに変えたいという、意欲ある生産者の努力が報われる環境をつくっていきたい。
玉木氏 今回のTPPには反対。攻めるべきものを攻め、守るべきものが守られたかの検証が必要だが、農産物については国会決議違反と言わざるを得ない。重要5品目は除外か再協議にと求めたが、品目ベースでは、無傷で守られたものはゼロだった。
攻めるべき分野も攻められていない。米国が日本の自動車にかける関税は乗用車で25年、トラックは30年残る。だが米韓自由貿易協定(FTA)ではそれぞれ5年と10年。これでは韓国に負けてしまう。
――政府の情報開示に対する評価は。
小泉氏 仮に民進党が与党だったとしても、情報公開できる度合いは限られる。相手国との信頼の問題で、交渉の過程でどんな議論があったかまでは明かせないのが外交の基本中の基本だ。
玉木氏 交渉過程も含めた全体像が分からないと、適切な対策も打てない。米について、最終的な文書にはない口約束や密約があるのではという不安もある。
――国会決議は守られたと思いますか。
小泉氏 国会で通すということは、決議にかなうということ。われわれは決議をしっかり守った上で交渉を妥結し、結果を公表している。
玉木氏 対策で再生産を可能にすれば、何とか決議の趣旨に沿うという言い方を安倍晋三首相はしているが、今の対策では不十分だ。
小泉氏 TPP以前の根本的な課題にしっかり取り組むことも必要だ。仮にTPPが発効されなかったとしても、日本農業に持続可能性があるのか。農業の総産出額は20年間で11兆円から8兆円に落ちた。基幹的農業従事者の平均年齢は67歳、米農家は70歳を超え、年齢構成は著しくアンバランスだ。
玉木氏 TPPにかかわらず、改革なしには日本農業の持続可能性が厳しいという認識は共有している。ただ改革をする時に、さらに重りを手足に付けては、農家が意欲を失う。先に対策を示し、体力を付けてから国境措置を開放していく「先対策・後開放」の原則でやっていくべきだ。

農協改革
――農協改革はどう進めますか。
小泉氏 農協の組織を壊すとか残すとかといった議論ではない。農協の果たすべき機能や役割は何かということだ。農政の目的は農業の発展で、農協の発展ではない。
JA全中の奥野長衛会長が「一円でも安く資材を卸し、一円でも高く農家の作ったものを売るのが農協の原点」と言っている。全く同感だ。その役割を果たす組織かどうかが問われている。やはり経済事業の改革は不可欠。全国連ではJA全農だ。中野吉實会長も改革の必要性は認めている。
玉木氏 農協改革が必要なことは確かだ。しかし改革の方法が的外れだ。全中の業務監査を見直しても、農家の所得は倍にならない。農協は協同組合なので、その自主性の尊重が大事だ。
何より大事なのは農家のために働かなかったら見放されるということだ。その意味で、地域重複農協や県域を越えた農協が既存の農協と競争し、切磋琢磨(せっさたくま)を生かすような改革が望ましい。
政治が農協をいいように使ってきたが、脱却しなければいけない。改正農協法には、政治的中立性を明確に書きたかったが、与党に反対された。やたらと政治が介入するのは、結果として農協のためにも農家のためにもならない。
小泉氏 政治の関与を薄め、農家の自由度を上げる。この貫徹が農政のあるべき方向だ。自主的な改革意欲を阻害してはいけないことも同感する。しかし自主改革の尊重と言えば聞こえはいいが、自主改革が着実に行われてきていたとしたら農業は今ほど持続可能性が問われることはなかったことも事実だろう。
私が農協のあるべき姿は何なのかと問い続けているのは、それだけJAグループの力が大きいと痛感するから。組織力、資金力、ネットワークを遺憾なく発揮した時の農業界に与えるインパクトを、JA自身が過小評価しないでほしい。
――准組合員制度の見直しについては。
玉木氏 これも自主性に任せればいい。もちろん農協は大事な社会的資本。政治的な脅しのように(5年後の)見直し条項を付けるのは問題だ。
米政策
――米政策をどう考えますか。
小泉氏 米はすごく大切だが、特別視し過ぎてできなかったことも直視しなければいけない。本来、需要に応じた生産への移行は2008年からやるはずだったが、頓挫した。この間の政治的コストや振り回された農家の思いを考えると、もうぶれてはいけない。
18年は、米政策の歴史の大きな転換点となる。国が生産数量目標の配分をやめ、需要に応じた生産をしてもらえる環境づくりをしていく。何としてもやり遂げる。
外食・中食との連携も大切だ。これからはJAも田植え前に実需者と向き合う。これだけ注文を取ってきたからこれぐらい作ろう。複数年契約にしていこう。そういう形で売り切る。その後押しを全力でやる。輸出の可能性も十分ある。
玉木氏 国は、生産調整はやめると言う一方、環太平洋連携協定(TPP)で輸入米が増える分、国産米を買い上げて国内需給に影響を与えないようにすると言う。国は関与するのか、しないのか。農家も混乱している。安倍政権は飼料用米に誘導し、米価を上げようとしている。これも間接的な需給調整だ。
価格は市場で決まるべきで、人為的に関与する政策は長続きしない。特に土地利用型作物は、どうしても販売価格が生産費を下回る。そこは所得補償して営農継続できるようにすべきだ。
小泉氏 戸別所得補償をやった裏側で、土地改良予算が大幅に削減されたのも事実だ。もちろん、基盤整備は真に必要なものをやるべきだし、飼料用米はコスト削減を全力でやる必要がある。
玉木氏 農業所得は民主党政権下で伸びたが、ここ2年は下がる傾向にある。このことは事実として言っておきたい。
一方、飼料用米を450万トンに増やすのに必要な予算は1600億円に上る。さらに基盤整備に税金をつぎ込むことに国民の理解が得られるだろうか。
農業の将来像
――農業の将来像をどう描きますか。
小泉氏 農家の年齢構成が著しくアンバランスな今の状況は、若い人が見向きもしなかった結果だ。農家の誇りを失わせた一因は農政にある。それは「農家は弱者だから守らなければいけない」という考え方だ。魅力的でもうかる。崇高な価値がある。そんな前向きな姿を描けなければ、若者が入らないのは当然だ。
農業の世界のイメージを変え、ベンチャー企業や異分野の参入など新たなプレーヤーを入れなければいけない。
玉木氏 魅力的な農業に政治の責任でしていかなければいけない。
一方で水田作をどうするかは、国家戦略として考えるべきだ。税金を投入しても守るべきものは何か。農政の対象を明確にする必要がある。食料をどう確保し、水田をどう守るか。コンセンサスを取って、しっかりと支えていかなければいけない。
――政権交代の度に変わる農政は不幸です。与野党が一致できるところはありますか。
小泉氏 国の関与は減らす。現場の自由度を上げる。この方向性は間違いなく共有している。
技術開発への投資も必要だ。地球温暖化など環境変化に打ち勝つ技術を、国が研究・開発しなければいけない。食料安保と人材育成の重要性についても思いは同じだ。
玉木氏 一致させたいのは所得補償の在り方だ。今回のTPPには反対だが、自由貿易と整合的な農政にしていかなければいけない。価格のコントロールから卒業すべきで、何らかの所得補償が必要になる。米に対する直接支払いの在り方で、ある程度一致できれば農家も安心する。