――備蓄米放出の成果をどう受け止めているか。
スーパーの平均販売価格は3週連続で値下がりした。業者間のスポット取引相場も3週連続で下落した。随意契約で放出した備蓄米によって動きが変わってきた。
価格について、農相就任当初は「高いのを何とかしてくれ」という声が多かった。今は「下がり過ぎたときはどうするんだ」という声が多くなっている。世の中の受け止めが変化している。
――需要があれば無制限に放出する方針は変わらないか。
もちろんだ。今の米価の高止まりは生産者のためにならない。民間事業者が高い関税を支払ってでも輸入米を販売している。米価を落ち着かせなければ、どんどん外国産米が入ってくる。消費者の米離れが進んでしまう。生産者にはその思いを理解してほしい。
――米価の適正水準をどう考えるか。
適正価格という大事な議論をする上でも、1年で価格が2倍に上がっている状況を放置してはいけない。そのためにマーケットと戦っている。時に生産者からすれば理解しがたいことがあるかもしれない。ただ、生産者が、将来的に安心して米作りを営めるような価格を考えていないわけはない。
放出した備蓄米は2000円になっているが、新米を2000円にするということではない。自民党では「新しい資本主義実行本部」の事務局長として、物価を上回る賃上げを実現し、インフレに対応した成長型の経済を目指してきた。米の価格を、賃上げも物価も反映されない状況に戻すなんてことはない。
――備蓄米の相次ぐ放出や、主食用米の増産見込みで、米の需給緩和への懸念がある。
価格下落に陥りそうになったとき、しっかり対応してもらいたいという声はものすごく多い。マーケットの環境が整ったら、放出した備蓄米の数量と同じ数量を市場から買い戻す。
――随意契約で放出した分も含めて買い入れ、100万トンとする適正水準に戻していくのか。
もちろんだ。備蓄米が15万トンのままで大丈夫とは全く思っていない。
――価格抑制に向けて備蓄米を放出している。下落した際に備蓄米を買い入れて価格に関与するということか。
マーケットの環境が整った段階でしっかりと適正水準に戻していく。
――米の輸入に関する発信に、生産者は不安を感じている。
生産者には理解しがたい面があることも理解している。これから生産者とできる限り会って、互いの意見を話し合うような前向きな時間を持ちたいと思っている。
――米農家の経営安定にどう取り組むか。セーフティーネット対策への考え方は。
セーフティーネットづくりはものすごく重要だ。与野党の垣根を越えて、提案をしっかり受け止めながら考えていきたい。
農業の世界は、天候との戦いなど不確定要素もある。保険に入って営むのが大前提ではないか。収入保険の加入で青色申告がハードルになっているとしたら、農家への説明や後押しもJAグループと一緒にやらなければいけない。
収入保険は5年間の平均収入を基準に、補填(ほてん)する仕組みだ。2025年産の米価は、各地の概算金の状況からすると、大幅に下落する状況にはない。26年産の基準収入は上がるため、より発動されやすくなる。
今後、収入保険に見直すべきところがあれば、それは考えの一つになる。
――農家への所得補償についてはどう考えるか。
民主党政権の戸別所得補償制度は、土地改良事業をぶった切ったという面で、大区画化、集約化、規模拡大など構造転換を加速したとは到底言えない。土地改良事業を大幅に削って所得補償に充てる対策は取るべきではない。
――農業予算は増やしていくか。
骨太の方針でも「別枠」の予算が位置付けられた。大区画化、スマート化などの推進に向けた5年間で2・5兆円の事業規模を農水省としても形にしていきたい。
――中山間地や条件不利地への対応は。
大区画化や集約化の必要性は与野党のコン共通認識になっているが、急傾斜地や条件不利地でも全て農地をまとめられるわけではない。すでに直接支払いもあるが、より良いサポートの仕方、支え方についても議論していくのは当然だ。
――JAグループにどのような役割を期待するか。
JA全中のシステム開発や農林中央金庫の赤字といった問題があるが、これを改革の好機にしてもらいたい。農水省自身も反省しなきゃいけないこともある。互いがピンチをチャンスにしていくタイミングになればいい。
JAは金融事業を行うためにあるのではなく、生産者の経済事業を支えるためにある。生産者1人ではできないことをするために、農協はある。共同購入、共同利用で役割を発揮してもらいたい。農機のシェアやレンタルも含め、JAがもっと前に出るべきだ。
JAは、スーパーや葬式、結婚式、ガソリンスタンドなど何でもビジネスにしてきた。なぜ、生産者の経営をサポートする事業は別会社で作らないのかといつも思っている。JAのやるべき仕事は、農家が高いものを買わなくても営農し続けられる環境をつくることではないか。
――JAの独自性や多様性については。
輸出をJA独自で頑張っているところもある。金融でようやく立っているJAもあるが、経済事業を頑張っているところもある。JAは多様だ。中山間地や条件不利地で、JAが必要なのは間違いない。
一部では、できる限り安い資材を生産者に販売するというマインドに欠ける側面もあった。これまで自己改革に取り組んできた中で、本来のJAの役割が発揮されるよう一緒に取り組んでいきたい。
(岡信吾、國本直希、森市優)