(聞き手=編集局長・川島豪紀)
――米の店頭価格は、首相が目標としてきた5キロ3000円台に入ってきた。
米の価格が1年で2倍になるというのは自分自身、初めての経験だ。異様な高騰は消費者にものすごく不安を与えた。価格高騰時の備蓄米放出という今までになかったことを江藤拓前農相が決断し、小泉進次郎農相が随意契約という手法を用いたことで、米の価格が下がり始めた。
――米の適正価格や、政策の在り方をどう考えるか。
米は特にそうだが、価格弾力性が非常に低く、多少の供給の増減で価格が大きく振れる。食料は完全に市場の需要と供給に任せても、消費者、生産者双方が一致する価格にはならないと考えている。
増産に向けては、基盤整備や農地集積によるコストの削減、付加価値向上、輸出といった努力があり、それが国民全体に裨益(ひえき)する場合には、農家に対する手当ては必要になる。 今のまま直接所得補償すれば、現状を固定するということに他ならない。それで納税者の理解を得られるとも思っていない。
――中山間地域農業をどう振興していくのか。
中山間地域には水源涵養や景観維持の機能、そして良質な付加価値の高い米を生産できる特性がある。
中山間地域支援が今のままで十分であれば、耕作放棄はこんなに激しくなっていないのではないか。さらに手当てを厚くする必要がある。中山間地域の役割について、広く納税者の理解を得ることも必要だ。
農業者がもう続けていけないということであれば、どのような主体が維持していくのか、答えを出さなければいけない。

――米の安定供給に向け、JAにどんな役割を期待するか。
高付加価値化や農地の集約、農機の共同利用など、JAの果たす役割は非常に大きい。輸出に向けた売り込みや、海外の需要の把握でも期待している。
平成の大合併で、地域の声が届きにくくなった。そこでJAには地域マネジメント法人的な役割を果たしてもらいたいと主張してきた。地方にとってJAの存在は非常に貴重であり、協同の理念に即し、地域で役割を果たしてもらいたい。
――国会では、自動車のために米、農業を犠牲にする考えを持っていないと答弁していた。
その考えは変わっていない。自動車産業はわが国の基幹産業だが、自動車産業を守るために米の輸入を増やすとか、ミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)米とか、そういうことを考えているということはない。

――食料安全保障をどう位置付けているか。
カロリーベースの食料自給率が38%であることは、いかに国家を脆弱(ぜいじゃく)にしているのかということだ。
防衛面の安全保障だけでなく、食料面の安全保障も重要だ。防衛面は、自衛隊の強化や自衛官の処遇改善などで少しずつ改善が見えているが、食料自給率は全然上がらない。
農業者の人口構成がサステナブル(持続可能)で、農地がきちんと維持され、農業のインフラとクオリティーが維持された結果が自給率だ。38%がいかに脆弱なものであるかは、強調し過ぎてもし過ぎることはない。国民に理解を得る努力をしていきたい。
(岡信吾)