[論説]広がる鳥獣被害 地域で3対策の徹底を
農水省によると、鳥獣による農作物被害額は、10年度の239億円をピークに減っている。21年度はイノシシの捕獲が進んだことや豚熱対策もあり、前年度と比べて6億円減った。鳥獣別の被害額は鹿が最多の61億円で、次いでイノシシ39億円、カラスなどの鳥類21億円と続く。
捕獲頭数を見ると、鹿は同5万頭増の72万頭。集中捕獲キャンペーンなどを展開して捕獲数は増えたが、生息域が広がり減少ペースは鈍い。引き続き捕獲の強化が必要だ。イノシシは15万頭減って53万頭となった。
数字の上では被害が減っているが、現場の受け止めは深刻だ。例えばイノシシは北へ生息域が広がり、東北地域で最多の被害となっている。背景にあるのが過疎・高齢化による荒廃農地の増加で、野生鳥獣の生息域が拡大していることだ。鳥獣被害は離農の動機にもなり、被害を防ぐ対策を継続的に進めることが集落の維持につながる。
被害防止には、個々の取り組みに頼るだけでは限界があり、地域を挙げた一体的な取り組みが欠かせない。農水省などが掲げる鳥獣害対策の3本柱を徹底しよう。一つは「捕獲による個体数の管理」、二つ目は「柵の設置などの侵入防止対策」、三つ目が「やぶの刈り払いなどによる生息環境管理」。ただ、これらの対策を実践するにも、マンパワーが必要となる。
期待したいのが、さまざまな防止策を実施する「鳥獣被害対策実施隊(実施隊)」の活躍だ。21年に施行した改正鳥獣被害防止特措法に基づき、全国の市町村の約9割に上る1513市町村(22年4月時点)が被害防止計画を策定、うち1234市町村が鳥獣捕獲や柵の設置などを行う実施隊を結成している。
隊員数は前年比657人増の4万2000人超。同省は銃刀法技能講習の一部を免除し、狩猟免許の取得にかかる税を免除するなどして、実施隊の活動を支援している。こうした国を挙げた人材育成の支援を進めてほしい。
同省は、自治体の情報通信技術(ICT)導入を支援し、対策を後押しする。センサーカメラで生息域や種類を把握し、効果的にわなを設置して捕獲する仕組みで、各県で取り組みが始まっている。
多様な人材と先端技術の導入で、野生鳥獣と人間が共生できる里山を取り戻そう。