[論説]熱中症対策の強化 早期発見へ体制整備を
農作業中の熱中症の死亡者割合は増加傾向にある。農水省によると、2023年は37人が熱中症で亡くなった。農作業中に熱中症になり、救急搬送された人は、24年は2322人と過去5年で最多となった。熱中症は、死亡に至らなくても長期にわたって後遺症が残る可能性があり、決して軽く見てはいけない。
熱中症対策の義務化は、労働安全衛生法の関連規則の改正により行われる。対策を怠った場合は6カ月以下の懲役か50万円以下の罰金が科される可能性がある。
法人などの企業は、①熱中症の恐れがある人を見つけた時の報告体制の整備②重篤化を防ぐ手順の作成③労働者への周知――が求められる。熱中症が疑われる人を見つけたら、作業場所ごとに担当者を決め、報告する必要がある。担当者名や連絡先、報告の流れなどを明記した張り紙を事務所に掲示するなど、作業場で周知を徹底してほしい。
農水省は、農業現場での対策として、小まめな休憩と水分補給、複数人で体調を確認し合いながらの作業、ファン付き作業服などの活用――を挙げる。栃木県のある農業生産法人では、気温が高い時期には、午前10時と午後3時に各15分ほど従業員の休憩時間を設けている。田畑の近くに簡易テントを設けて日陰をつくり、冷たい飲料を用意。休憩時間も業務時間に含め、従業員に無理せず休憩するよう促している。
同省は今年から5~7月の3カ月間を「熱中症対策研修実施強化期間」とし、対策研修を重点的に進めている。今年度中には全国、全地域での実施を目指している。行政やJAなどの生産者団体は、農家に対策を周知し、優良事例を横展開してほしい。
加えて、1人でも従業員を雇えば、加入すべきなのが公的保険である労災保険だ。労災保険は雇用主が保険料を全額負担し、従業員が全額補償を受けられる仕組み。農作業中の熱中症をはじめ、けがや病気による治療費に加え、休業手当なども支給される。
現行の制度は、従業員4人以下の個人経営の場合は労災保険の加入が任意となる。だが未加入の場合、万一の際には経営主が全額補償しなければならない。経営リスクを回避し、従業員が安心して働ける環境の整備へ、行政やJAは労災保険加入の働きかけを強めてほしい。