[論説]「牛乳月間」に考える 特売対象からの脱却を
近年、牛乳の消費シーンを広げる提案が活発だ。例えば脱脂粉乳。「スキムミルク」という名称が浸透してきている。学校給食が始まった当時の「味気ない」「まずい」といったイメージは払拭され、低脂肪・高たんぱくで健康管理や体作りにつながる食材として期待されている。飲料だけでなく、シチューをはじめ料理の用途も幅広い。
非常食としても優れている。常温で1年間保存でき、軽くて扱いやすく、効率よくタンパク質を摂取できる。昨夏に南海トラフ地震臨時情報が発表された際は、日頃の備えとして改めて注目された。家庭だけでなく企業の防災備蓄品として普及が見込める。
「牛乳を飲むとおなかがごろごろする」と悩む人にとって朗報なのが「A2ミルク」だ。科学的根拠の蓄積も進んでおり、国内市場は拡大傾向にある。「飲みたいのに飲めない」人への解決策として、一層の販売促進や認知度向上を期待したい。
消費を広げる提案と併せて、国民全体で考えたいのが牛乳の適正価格についてだ。国会では農畜産物の適正な価格形成に向けた関連法案の審議が大詰めを迎えている。
法案の土台として、農水省の「適正な価格形成に関する協議会」の飲用牛乳ワーキンググループで、議論が重ねられてきた。争点は、餌などのコスト上昇を踏まえた価格と、消費者が買える価格との間に生じるギャップをどう埋めるかにある。
指定生乳生産者団体(指定団体)と乳業メーカーの乳価交渉では、飲用・乳製品用と段階的に価格が引き上げられてきた経緯がある。
酪農家の立場に立てば、コスト増を吸収するにはまだ不十分という意見もあるだろう。ただ、販売価格が上昇すれば消費は減退する。流通・小売り段階では「(牛乳は)消費者の中で『これくらいの価格』だろうというものが確固としてある製品」とみる。特売対象になりがちな牛乳だが、持続可能な酪農に向けて、「これくらいの価格」という相場観を変えていく必要がある。
安定供給ができなくなれば高い、安いを論じるどころではなくなる。そうなってからでは遅い。産地と実需者、消費者が対立するのではなく、持続可能な酪農経営に向けた「適正価格」を考える対話が欠かせない。