[論説]食育月間スタート 農業の今を考える好機に
2025年度は、政府の第4次食育推進基本計画(21~25年度)の最終年度となる。進行状況を調べたところ、「食育に関心を持っている国民の割合」は目標値90%以上に対して24年度は80・8%だったが、「農林漁業体験を経験した国民の割合」は同70%以上に対して同57%にとどまり、「朝食を欠食する若い世代の割合」は同15%以下に対して29・6%と若者の約3人に1人が朝食を食べていない。目標に達しないばかりか、数値的には悪化傾向にある。
若い世代で、野菜や果物の摂取量が減るなど食生活の乱れは明らかだ。このため農水省は「大人の食育」を掲げ、従業員の食生活改善に取り組む企業を「食育実践優良法人」(仮称)として認定する制度を検討している。健康的な朝食やバランスの取れた社食の提供、定期的な食育研修や栄養指導などを例に挙げる。
JAグループでは「食育」を進化させ「食農教育」と位置付ける。食を支える農業や地域、自然との関わりに注目し、農業を知り、体験することで食と農のつながりやその価値を学ぶのが狙い。対象は子どもから大人までで、農業体験や、地産地消の料理教室など多彩な活動を展開する。
JA富山市は5月から自治体や学校と連携し、小学生に「田んぼ経営まるごと体験」を実施する。田植えから栽培管理、収穫、精米、販売、調理、試食まで稲作経営を一通り体験することで、農業で収入を得る大変さや喜びを学んでいく。水田が盛んな地域への郷土愛と、将来の担い手育成を期待する。滋賀県のJAこうかは、伝統作物「水口かんぴょう」の振興へ地域を挙げて活動を続ける。歴史を受け継ぎ栽培、加工体験を通して特産を次代につなぐ。24年度は大学生がかんぴょうのレシピ集を発行し、若者への消費拡大を目指す。
こうした食農教育を活発に展開することで、食と農の距離を縮め、たくさんの命の恵みと農家への感謝の心を育みたい。担い手不足やコスト高、気候変動など農業を巡る状況は厳しいが、食卓の先にある現場を消費者が理解し、課題を共有することは、農畜産物の適正な価格形成に向けた大きな一歩となる。
新鮮でおいしく、栄養豊かな食べ物を口にできるのは、農業の現場で汗を流す人がいるから。食と農の未来は、国民一人一人にかかっている。