[論説]後を絶たない熊被害 “実働ハンター”育成急げ
環境省によると、2015~24年度の10年間の熊による被害者数は1104人、死者数は25人に上る。死者の約9割は北海道や東北に集中し、今年も人身被害が続いている。同省の速報値によると5月末時点で21人に上る。
東北の自治体は、警戒感を強めている。青森市は25年度から「ツキノワグマの出没に関する対応マニュアル」に、猟友会会員の判断により、猟銃を使って熊を捕獲できることを初めて明記した。同市では昨年6月、熊に襲われ80代女性が命を落とした。県内で3年ぶりの死者だった。
青森県によると、今年に入り出没件数は163件(5月末時点)と、前年同期を24件上回る。昨秋は、熊が好むブナの実が豊作だったことから、母熊の栄養状態が良く多産につながった。県は今後さらに出没が多くなるとして、危機感を募らせている。
市街地付近での出没も目立つ。同省によると、20年度の熊による人身被害の件数は、山林49件に対し、人の生活圏である住宅地、市街地、農地の件数が53件と上回った。熊の行動範囲が平場にも広がっており、危機意識を強める必要がある。
現場経験のあるハンターの育成も急務だ。国内に22万人の狩猟免許所持者がいるとされるが、免許を取得したものの狩猟者登録をしない「ペーパーハンター」の割合が増えている。その理由について、東京都猟友会の八尾明会長は「狩猟者登録後、どこで何ができるのか分からないからだろう」と分析する。現場で活躍する狩猟人口を増やそうと、同会は、狩猟未経験者を対象にした講習や実践経験のあるハンターと同行し経験を積む場を設け、担い手の育成へ環境整備を進めている。
ただ、猟友会の予算や現場のマンパワーは不足しており、行政の支援が必要不可欠だ。兵庫県や和歌山県などでは、実践能力のあるハンターの育成に乗り出している自治体もある。こうした先進事例を各地に広げ、熊による被害を防ぎ、共存を目指したい。
熊はいつ、どこに潜んでいるか分からない。都道府県が発表している熊の目撃情報を積極的に活用し、①熊に自分の存在を知らせる②熊の活動時間や霧や風のある気象状況に気を付ける③ごみなどは放置せずに持ち帰る④熊の痕跡に気を配る――などの対策を徹底し、命を守ろう。