[論説]畜産経営危機の対策 万一への計画策定急げ
近年、畜産経営の継続が難しくなり、廃業に追い込まれるケースが少なくない。全日本畜産経営者協会(全日畜)は、日本中央競馬会の助成を受け「畜産経営の危機克服・持続のための実態緊急調査事業」を実施、2年間の成果をまとめた。
全国の畜産経営者を対象に実施した同協会のアンケートによると、経営者の7割以上が、経営危機に直面した経験を持っていた。経営危機の要因としては、「戦争・紛争による経済情勢の悪化」が最多の7割を占め、次いで「国際的金融市場の激変」が半分に上った。ウクライナ紛争や中東情勢の悪化が物流の停滞や為替変動を招き、日本の畜産経営にも影を落としている実態が浮かび上がった。
経営の危機を受け、「収入が減少した」との回答は56・5%だったのに対し、「支出が増加した」は85%と圧倒的に多かったのも特徴。飼料などのコスト増大が経営を圧迫している。農水省が公表する農業物価指数(4月)は、農業生産資材が124・4(2020年=100)と、前年同月より3・5ポイント上昇し、コスト増を裏付ける。
このため農水省は、農業経営者にもBCPの策定を提案する。自然災害などの緊急事態に遭遇した際、損害を最小限にとどめるようにするもので、平時にしておくべきことと、緊急時に向けて対策・手順をあらかじめ決めておく。同省では事例を示しており、積極的に活用したい。
全日畜では、危機克服の事例集を作成。台風で停電を経験したことで、発電機を導入し、毎年稼働させる訓練をしている養豚場や、従業員のために女性用トイレとシャワー室を完備し、雇用を確保した酪農家などを紹介する。
畜産は特に、飼料価格が国際情勢の影響を受けやすいことから、自給飼料や食品残さから製造するエコフィードの活用も指摘した。養鶏など細かい計数管理が求められる経営には、デジタル技術の導入で、経営の“見える化”も促している。
緊迫する中東情勢、トランプ関税の交渉の行方など、国際情勢の先行きは、ますます不透明になっている。今後は集中豪雨や猛暑などによる気象災害も懸念される。
飼料高騰や自然災害などに備えたBCPの策定と併せ、経営危機を回避する万全な体制整備が求められる。