築155年 10年超住み手なく荒廃
北陸新幹線が停車するJR飯山駅から車で20分。市北西部の山あいの集落に目指す空き家はあった。「ここから10分でスキー場に着くんです」とツアー客の案内係、同市都市計画課の大原弦太さん(32)が言った。ウインタースポーツの聖地、斑尾高原まで車ですぐの豪雪地帯だ。
見学したのは、1868(明治元)年に建てられた築155年の木造2階建て農家。延床面積は163平方メートル。5DKの住居スペースにキノコ小屋が二つある。同市では農閑期に特産のキノコが栽培されていた。
さらに、木造2階建ての土蔵(72平方メートル)、木造平屋の倉庫(広さ不明)も付いて販売価格は100円だ。
家を所有する50代男性の母親が住んでいたが、10年くらい空き家になっていたという。庭は大人の背丈以上の草木が伸びていた。
ツアーに参加した水戸市の男性(56)は「自然に囲まれた一軒家を買って、自宅とペットの保護施設にしたい」と考えているという。大原さんの案内で軒をくぐると、上がり框(がまち)の先にふすまで仕切られた部屋が並び、一つ一つが広い。屋根はかやぶきだが、上からトタンを重ねていた。
10畳と8畳間が続く座敷は開放感があった。日当たりもよく、障子から暖かい日が差し込んでいた。寒さをしのぐための天井が付けられているが、取り外せば梁がむき出しの吹き抜けになる。
ただ、荒廃は進んでいた。玄関奥の台所は、流し台に面した壁が抜けていた。数年前に雪の重さで屋根がつぶれ、崩れたという。畳部屋のあちこちに引きちぎられたコンセントが散らばっている。侵入した動物がかみちぎったとみられる。
サイト掲載1か月 問い合わせ20件
「誰も住まなくなって数年たつと壊れたり荒れたりする。空き家ではよくあることです」と大原さん。家全体をリフォームすると最低でも1000万円はかかるという。屋内には家具や電化製品が残されている。こうした残置物も購入者が処分することになる。「100円」で住めるわけではないのだ。
空き家は、市の担当者らが買いたい人に活用法を聞いた後、所有者が売却先を決める。この家はサイト掲載から1カ月で20件の問い合わせがあり、1人が購入を希望していた。
補助金活用 1500万円で喫茶店に 神奈川・川崎市と2拠点生活
中野市内の別の「100円」空き家を昨年購入、リフォームして喫茶店「高社珈琲」をオープンさせた男性(57)がいる。自宅のある神奈川県川崎市との2拠点生活を送る会社員。10年間も空き家だった築60年の古民家が、地域の憩いの場に生まれ変わった。
店は市街地から車で10分ほどの高社山(標高約1352メートル)の麓、登山道の入口近くにある。営業は週末限定で、ハンドドリップコーヒーや軽食を提供している。シーズン中は登山客も訪れる。
同市で農業を営む湯本正博さん(75)の実家だった。家の状態や接道の問題で空き家バンクに登録できず、湯本さんが格安空き家サイトに掲載したところ、男性が100円で購入した。
男性は、雨漏りで傷んだ屋根板や床を張り替え、元の柱や梁(はり)は残し、建具もできる限り生かした。木のぬくもりを感じる店内の柱には、かつて湯本さんの子どもらが身長を刻んだ跡が残る。
リフォームでかかった1500万円のうち、改修費の3分の2(最大600万円)を助成する市の補助金を活用し、費用を抑えることができた。
男性は生まれも育ちも東京。親が新潟県妙高市出身で、北信地域には親しみがあった。「都会は家の距離は近いけど、人の距離が遠い。田舎は家の距離は遠いけど、人の距離が近い。近くを通りかかった登山客に、近所の人が『ここに喫茶店あるから休んでいけるよ』と紹介してくれる。ありがたいですね」