「もう何をどうしたらいいのか」。米50ヘクタールを栽培する珠洲市の農業法人こうぼうアグリの代表、宮崎宜夫さん(77)は、そう吐露する。
離農した農家の農地を引き受けるなどして栽培規模を拡大する中、米の乾燥調製施設の整備に踏み切った。約6000万円を投資し、昨年稼働させた。その直後の今年1月、地震に見舞われ、ローンの支払いが5000万円残る中で施設は損壊。さらに120平方メートルの育苗作業場が全壊した。建て直しには4000万円以上かかる見込み。その他、農機具や肥料の保管庫も全壊した。
「農地を守り続けるためにも、壊れた設備を元に戻したい」と宮崎さんは考える。国や県の補助金を活用し、自己負担を減らす計画を立てる。
ただ、既にローンを組んでいる分の5000万円の支払いが残る。施設再建に必要な資金の自己負担分を調達するには「新たにローンを組まざるを得ない」という。借金を重ねることに対して「将来も法人経営を維持できるだろうか」と不安を拭えずにいる。宮崎さんによると、地元では少なくとも農家6戸が農機などのローンを抱えたまま被災したという。
昨年にも被害、軽減策が急務
珠洲市を含め、能登半島先端の奥能登4市町を管内に持つJAのとによると、現在もローンが残る融資の件数は、農機や施設の導入・修繕などの農業関係で約190件。家の新築やリフォームなどの住宅関係で約170件に上る。
今年1月の地震発生からさかのぼること8カ月前の2023年5月に、震度6強などの地震が能登半島で発生しており、JAは「前回の地震で多額のローンを既に抱えている被災者も少なからずいる」(融資課)とみる。
1月の地震を受け、政府は、既存のローンの返済期間を伸ばすなどの対応を金融機関に要請。農機や施設の再取得・修繕に対しても、県や市町の補助と合わせて、自己負担を1割に抑える補助金事業を措置した。
一方、地域の農業関係者からは既存ローンの対策と合わせて「自己負担分の軽減策も充実させてほしい」との要望に加え、「補助申請の認定や補助金交付が迅速に進まないと、それだけ再建が遅れ、農業を維持できるかどうかにも影響が出る」と訴える声が上がる。