「あっという間に春が来る。今月中には直まきを始めたいから急がないとね」
急ピッチで復旧作業を進めるのは、米100ヘクタールを手がけていた珠洲市の農業法人すえひろ。3月中旬のこの日は、ボランティアらと共に水路の泥上げ作業と、ごみなどの撤去を終えた農地の代かきをした。同社では作業負担を分散するため、直まきと苗移植での田植えを組み合わせている。同社の政田将昭さん(50)は「直まきに間に合わなければ移植に切り替えるなどして、少しでも多く米を作りたい」と、力いっぱいスコップを振るった。

地震と豪雨により、復旧が必要な同社の農地の面積は50ヘクタールに上る。自力で直せる農地の復旧を進める一方で、手も足も出ない農地もある。同市上戸町の約20ヘクタールは、流木や土砂の流入の他、山崩れ、氾濫した河川にえぐられるなど、農地の原型もとどめていないところさえある。護岸の修復を待ってから基盤整備をやり直す必要があり、同社代表の末政博司さん(65)は「田植えできるまでに10年は下らないのではないか」とみている。
輪島市町野町の農業生産法人・粟蔵水稲代表の宇羅恒雄さん(80)は春の作付け見込みが「分からない」と声を落とす。昨年は35ヘクタールを作付けし、20ヘクタールが豪雨で刈り取り困難となった。「昨年収穫した15ヘクタールにどれだけプラスできるか。その見通しが立たない」。豪雨で倒伏した稲が今も水田に残る。「半分以上がうちの稲」だという。仮設住宅から農地に通い、再起を目指す。
県によると、奥能登4市町では豪雨により約950ヘクタールが冠水、約400ヘクタールに土砂や流木が堆積する被害があった。そのうち約170ヘクタールの復旧を5月までに終える見込みで、「業者を確保して順次工事を進めている」(県農業基盤課)。復旧面積の上積みを目指し、建設業者の確保や調整を進めていくとした。
ただ、豪雨だけでなく、地震による被災で復旧を待っている農地も多い。県が公表している農業被害は、地震関係で昨年8月21日時点、豪雨以降で同10月16日時点の数字から更新はない。農地被害は2945件となっており、「国の災害復旧事業を活用して直す農地についての査定は完了した」(同)というが、全体の被害面積は公表していない。
「建設業者も不足していて、待っていても復旧が見通せない」として、自力で農地復旧を試みる農家もいる。輪島市の米農家は、掘削や整地を行うための車両系建設機械の免許取得に乗り出した。「自分の農地だけでなく、集落内の農地の復旧も引き受けたい」と、講習に通っている。
県では地震後、国の災害復旧事業の対象とならない農地の復旧を自分で行う場合の費用を補助する事業を独自に措置。豪雨後にも、農地の再生などを自ら行う農家が使える補助事業の対象を広げるなど、自力での農地復旧も後押ししている。
その他、農業者自身が復旧工事を受託することで、人件費を含めた工事費を受け取る「直営施工」の申請も受け付ける。工事業者の不足をカバーすると同時に、「少しでも農家の所得につなげられれば幸いだ」(県農業基盤課)として、工事への参加を促している。
(島津爽穗、町出景利)



