<ことば>消滅可能性自治体
子供を産む中心世代である20、30代の女性人口が、2050年までの30年間で5割以下に減少する744自治体を「消滅可能性自治体」と定義した。この他「ブラックホール型自治体」「自立持続可能性自治体」などと全自治体を9分類に区分けして発表した。10年前も増田氏が座長を務めた「日本創成会議」がほぼ同様の推計を発表。40年までの20、30代の女性人口を推計し半数の自治体が消滅する可能性が高いとした。通称「増田リポート」と呼ばれ、地方創生政策の契機になった。「静かな有事」に警鐘
増田 寛也氏
――再度「消滅可能性自治体」の推計を発表した狙いは何ですか。
地方から若年人口を呼び集める大都市側の問題を分かりやすく可視化したいと考えた。10年前の分析はいわゆる「消滅可能性都市」だけを浮き彫りにしたが、10年たち自然増が全く改善されていない都市側の実態を明らかにする必要があった。また、「自立持続可能性自治体」も提示した。この二つを特に伝えたかった。――10年間の政府の地方創生政策をどう評価しますか。
人口対策は自然減と社会減の両方ある。政府の地方創生の取り組みは社会増減が中心で、自然減は「子ども子育て本部」(こども家庭庁)に対策が移行した。出生率がずっと下がっていて、自然減対策は(地方創生の)効果がなかった。――地方創生は失敗ということでしょうか。
政府は合計特殊出生率の目標値を1・8とする。結果は出ていない。しかし、この対策は長い年月をかけるもの。失敗や成功と白黒つけるより、意思を結集した大きな司令塔の下で取り組んでほしい。出生数の減少にブレーキをかけるためには数十年の時間を要する。すぐには取り組みに効果が出ないので、対策をやり続ける強い意志が鍵だ。政府には地方創生のこの10年間の検証をして、これからに生かしてほしい。
――出生率向上の具体策は何ですか。
いくつかある。出産、そして子どもが生まれた後の対策は、経済的な支援も含め以前に比べれば講じられている。ただ、女性の働く環境をこれからの時代に合ったものにしていく必要がある。それから婚姻数の減少対策。若い男女を取り巻く環境をどれだけ改善できるかが問われる。自治体は今の状況を分析し、地域住民で共通認識をしっかりと持つところから始めてほしい。例えば公共交通機関の衰退など本当に差し迫った問題がある時に対策を考えてきたが、全体の大きな(人口の)変化を地域ごとに捉えることからスタートしてほしい。
課題向き合い考える契機に
――全国の首長などから「危機感をあおる」「分断を生む」など批判が続出しています。
人口減少の問題はよく「静かなる有事」といわれる。あまり意識しないうちに、ひたひたと進み、気が付いた時にはもう取り返しのつかない危機的な状況になっている。日本がそういう道を一番先頭で走っている状況だ。さまざまな受け止め、違う考え方が当然ある。ただ、データと問題提起が示された時、それに対してどういうふうにしていくか、自分たちなりに考えることが大切だ。
10年前も推計に対しお叱りを頂いた。それでも、契機としていろいろなことに取り組んだ自治体がある。
――危機感をあおる「ショック療法」で諦める自治体もあるのではないですか。
それぞれの受け止め方。自治体などは正面から向き合っていかなければいけない。10年たち、どういう数字になっているかは地域を考えるデータであり材料だ。人口減に向き合わないと問題は解決しない。私は20年以上前から、人口減少への問題意識を抱いてきた。現実をきちんと受け止めた上で、将来に向けてどうしていけばいいか、やり方は地域によっていろいろある。しっかりとデータに基づいた形で地域づくりを進めることが将来に生かされる。
――若年女性の人口減少率で、50%は消滅するとした理由は何ですか。
どこかの数字で区分けしなければいけない。人口の将来推計は人口学的にきちんと成り立っている。若年女性をベースにしている違和感はあるのかもしれないが、男女だとずれが大きくなる。ただ、女性に出産の社会的なプレッシャーを与えてはならない。
――市町村合併や集住を促す考えはありますか。
市町村が合併したら人口減に耐えられるかというのは、少し違う。合併は自治体の体力を削る。考えるべきなのは、自治体間で広域連携を取ること。足りない点は連携で補い合うことが重要だ。地域づくりは合意形成が根幹。時間がかかる。住民たちが「集住したい」という合意形成がされれば集住も選択肢だが、地域の意思を尊重することが重要で、地域ごとに考える話だ。
世代交代進め個性生かして
――自治体や農業関係者に期待することは何ですか。
今後は、二地域居住や多地域居住がキーワードになる。関係人口や、地域の個性が生かされることが大切だ。農業に限らず、外から入ってきた人を拒まずに一緒に歩んでいくことが大事だ。地域に閉塞(へいそく)感を抱いている人たちがいる。閉塞感を分解するといろいろな側面が見えてくる。同質の決まったメンバーの中で物事を決めることへ若い世代は抵抗感を持ちがちだ。世代交代し、外部から多様な人が入ってくることをうまく受け入れて地域づくりを進めてほしい。
地域づくりぶれずに
小田切 徳美氏
――再び示された「消滅可能性自治体」をどうみますか。
「またか」という思い。10年前と同じ「消滅可能性」という強い言葉を使い、その市町村名の「リスト」まで発表するという同じことの繰り返しにあきれている。まず、少子化対策は自治体ではなく、国レベルの政策が必要である。それなのに、若い女性の数を指標として市町村単位の数字を必要以上に大げさに発表することで、指摘された「消滅可能性自治体」に責任があるような構図を作った。
人口戦略会議を名乗るのであれば、実質賃金の引き上げなどの国レベルの対応を議論すべきであり、地域問題に首を突っ込むのは筋違いである。
また、女性が半減する自治体を「消滅可能性」とする根拠はない。50%とする区切りに意味はないと10年前から批判されていた。しかし、こうした批判に答えないまま再び「消滅可能性自治体」を提示する姿勢は無責任ではないか。
さらに、人口減少でどの自治体も苦慮し対応を進めている。そこに再び消滅だと危機感をあおっても、頑張ろうという人はいない。危機感を醸成させるという考え自体が誤りだ。
むしろ地域や人々は、可能性や希望で行動する。各地の可能性の析出こそが重要。イソップ童話の例えで言えば「北風」ではなく「太陽」路線で小さな可能性を共有化し、それを少しずつでも大きくすることが本筋だ。
――今回は出生率の向上を重視しています。その評価はどうですか。
人口戦略会議は、過去10年間の地方創生政策により、人口の奪い合いが起きたと批判している。しかし、国が少子化に有効な対策を取れていない状況で、それなのに、10年前の地方消滅論により地域間競争をあおられた。
このため各自治体は、自分たちで取り組むことができる「社会減対策」という移住者の増加を目指すしかなかった。
人口の奪い合いは10年前の「増田リポート」に起因するのではないのか。それなのに、平気で批判を繰り広げ、自らの加害性への認識がない。だから同じことを繰り返すのだろう。
緩和と適応策 バランス必要
――ただ、農村の人口減少が加速化しているのは事実です。どう対応すべきでしょうか。
人口減少対策では、少子化に歯止めをかけるような「人口減少緩和策」と、人口減少を前提として、少ない人口でも幸せに住み続けるような仕組み作りを促進する「人口減少適応策」がある。両者のバランスが必要だ。「緩和策」は国全体の出生、子育て環境の充実など、主に国レベルの仕事だ。
「適応策」は、例えば過疎対策のように国レベルでの格差是正政策と、地域でそれぞれ内発的発展を目指すような地域レベルの対応がある。自治体ができる取り組みは「適応策」の中でも後者だ。例えば、地域運営組織(RMO)の設立支援や活動充実支援、また各種の人材育成などがある。
そのような適応策は、「地域づくり」と呼ばれ各地で取り組まれている。「地域づくり」はこの10年間さまざまな点で前進している。中には、関係人口を呼び込み、住民の各世代、移住者、関係人口や支援する企業や大学などが“ごちゃまぜ”になり“ワイワイ・ガヤガヤ”という雰囲気をつくり出す「にぎやかな過疎」といえる地域も生まれている。
関係人口など多様な指標で
――「にぎやかな過疎」の地は「消滅可能性自治体」から脱却していますか。
こうした地域でも「消滅可能性」と人口戦略会議からレッテルを貼られた地域も多くある。それは、定住人口だけを指標として、評価することに無理があることを意味している。指標化をするのであれば、せめて関係人口を考慮すべきだ。そもそも、人口小規模町村では年齢別の推計値は初期条件で大きく変動しやすい。今回「脱却」とされた所でも、そのような“数字のいたずら”である可能性もあり、逆も当然あり得る。
――つまり地域はどうしたら良いのでしょうか。
「にぎやかな過疎」といわれるような地域の一部では、地域全体で子育てする雰囲気も整い、出生数も増える傾向さえ見える。むしろそうした雰囲気が地域にできることは、真の少子化対策になる。「適応」が最終的に「緩和」につながっている。「人口が減少しても、幸せに住み続けること」を地域の力、自治体の力、関係人口などの外部からの力を糾合して、追求し続けてほしい。その先に人口減少への対応が見えてくる。
従って従来から各地で取り組んでいる地域づくりをぶれずに進めてほしい。今回の推計にあおられて一喜一憂する必要は全くない。