JA秋田しんせいは営農経済事業の強化に向けて事業間連携を重視し、司令塔となる部署が主導して農業法人や新規就農者をワンストップで支援している。デジタルトランスフォーメーション(DX)専任部署も新設し、営農指導や情報共有のデジタル化を加速させている。
JA管内の由利本荘市。就農7年目の斎藤諒汰さん(27)がブドウ園地で営農指導を受ける。言葉を交わす営農指導員がいるのは、約5キロ離れたJA本店だ。斎藤さんが着けた小型カメラ付きのスマートグラスを通じ、「同じ状況」を見ながら遠隔で指導する。
JAがスマートグラスを駆使して展開する「コックピット型営農指導」。広い管内で移動時間を省き多くの農家に指導できるのが強みだ。ミニトマトの新規参入者らへの指導に活用している。
スマートフォンで栽培データを共有できる営農支援サービス「あい作」の活用など情報共有のDXも進め、若手農家との接点を増やしている。
JAの経営環境の厳しさが増す中、総合事業の強みを生かした経営基盤の強化が課題。JA全国大会議案の経営基盤強化戦略では、事業間連携の強化やデジタル技術の活用などを重視している。
「営農経済黒字化宣言」を掲げる同JA。組合員ニーズに応える営農経済事業の司令塔となるのが、2021年に発足した組合長直轄の「農業経営支援室」だ。農業融資の経験が豊富な佐藤充室長ら各分野に通じた職員6人で構成。訪問活動などで農家の経営課題を洗い出し、「総合農協の強みを生かしたソリューション(課題解決)を提供する」(佐藤茂良組合長)。
昨年度は訪問活動を2144件、法人や大規模経営体との座談会は20回実施した。ある法人にはトマトの養液栽培を提案、新たな収益の柱に育ったという。スマート農業はDX推進課と共に進める。生産や営農指導の効率化の後押しに加え、JAとの取引が少ない農業法人との関係強化にも貢献する。
経営基盤強化に向けた新たな取り組みがJA間連携だ。今年8月に、隣接するJA秋田なまはげと包括連携協定を締結。効率化やコスト削減に向け、資材統一や施設の相互利用などを検討する。
佐藤組合長は「成長を目指す第二ステップに入った。JAの経営基盤を強化し、地域の生産基盤を守りたい」と未来を見据える。
経営基盤強化戦略
将来にわたり組合員・利用者のニーズに応え、価値提供していくために、不断の自己改革として、財務・収支の改善を図ることで、持続可能な経営基盤の確立に取り組む。また、高度なガバナンス・内部統制の構築に取り組むことで、組合員・利用者から信頼される組織・業務運営を進める。
価値提供の土台となるJAの組織基盤・経営基盤を強化していくためには、原動力となる役職員の力が重要。そのため、協同組合理念に共感し、活動や事業を通じてニーズに応え、組合員・地域に信頼される人づくりを進める。また、多様な職員が働きやすい、働きたいと感じる職場づくりに取り組む。