その中で「また食べたいな」と思う一番のおふくろの味は、唐揚げです。運動会などイベント事のお弁当には、絶対入っていました。
母の唐揚げの衣には、片栗粉が使われていて、大人になってから気付いたのですが、竜田揚げっぽかったわけですね。唐揚げと竜田揚げの明確な違いというのはないそうですが、小麦粉で揚げるか片栗粉で揚げるかとか、下味の付け方とかが違うようです。
唐揚げが好きな僕は、居酒屋に行ったら必ず食べたくなっちゃうんです。唐揚げは、店によって味が違いますよね。ラーメンと同じくらい違うと言ってもいいくらい。その違いが面白いと思うんです。母の唐揚げと似ているのが出てくると、無性にうれしくなります。
母からは「旬のものを食べなさい」と言われて育ちました。子どもの頃は分かりませんでしたが、大人になってから、旬の野菜を食べて体が元気になると、如実に感じるようになりました。野菜の持つエネルギーを感じますね。体調が良くなったり活力が出たり。小さな野菜でも、ものすごいエネルギーを持っていることに気付きました。
野菜に加えて、お米も大好きですし、僕の体を支えてくれています。ただし演じる役によっては、体をきちっと絞らないといけないこともあります。そういう時は白米は我慢して、食後の血糖値の上昇が緩やかな玄米を食べるようにしています。
今は玄米もけっこうおいしいですよね。昔と違って、前の晩から水に漬ける必要もなくなりましたし。体を絞る必要がある時でも、玄米という形でご飯を食べられることはありがたいです。
僕は一人暮らしを始めて12年になるので、自炊も得意になってきました。母の教えの通りに旬の野菜を使っています。野菜については、ファーマーズマーケットや産地直送のイベントを見つけては、買いに行きます。土の付いている野菜を見ると「おいしそう」と、テンションが上がるんですよ。
自分自身は野菜を作ったこともなく、土いじりもしてはいません。でも仲間に誘われて今年の3月からキャンプに行くようになって、自然に対する思いが変わってきたと感じています。農家の方々は、土をいじると心が落ち着くというじゃないですか。僕もその思いが、分かるようになってきた気がしますね。
初めてキャンプに行った時、僕は仲間から「ご飯担当」と言われたんです。何を作ればいいかずいぶん考えました。キャンプ飯で真っ先に思い付くのはカレーですけど、仲間たちは何度も食べただろう、彼らが食べたことのないキャンプ飯を作りたい──そう考えて、キンメダイを1尾持って行ったんですよ。しょうゆ、みりん、料理酒、ショウガも持参して。初キャンプで一人、キンメダイの煮付けを作りました。
仲間たちもさすがにキャンプで煮付けを食べたのは初めてだったようで、「あり得ない」と言いながら、すごく喜んで食べてくれました。
うなぎを持って行ったこともあるんです。かば焼きを3枚くらい持って行き、カットしたものを火であぶって。キャンプでうなぎをつまみに飲んでいると、至福を感じることができました。
家で作るものと同じものを作ってるんですよ。でもキャンプで食べると、全然、違うように感じます。自然の中で、生きていく、生かされているような感覚。これを得られるのが、キャンプの良さだと思います。原点に戻ったような感覚を得た上で仕事に戻ると、「頑張るぞ!」と気持ちの高まりを感じます。
ふくし・せいじ1983年、神奈川県生まれ。2002年に「ロングラブレター 漂流教室」でドラマデビュー。06年にNHK朝の連続テレビ小説「純情きらり」でヒロインの相手役を演じ、注目を集める。近年の主な出演作に映画「ある用務員」、ドラマ「青天を衝け」。来年2月11~24日、東京芸術劇場(東京・池袋)で舞台「インヘリタンス-継承-」に主演。3世代のゲイの生きざまから愛を問いかける。