[論説]「みどりの日」に考える 森の恵み 未来へつなげ
日本は国土の3分の2(約2500万ヘクタール)が森林に覆われ、世界で有数の森林国である。雨が降れば、森の土がスポンジのように水を吸い込み、地下水に蓄えられ、少しずつ川に流れていく。これにより水害を防いでいる。また大気の浄化や多様な生き物たちが暮らせる環境や心の癒し機能など、森林は私たちの暮らしと深く関わっている。その価値は、日本学術会議の試算で70兆円にも上る。
最近は、温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を吸収する機能に注目が集まっている。環境省によると、森林にはCO2換算で年間4570万トンもの吸収能力があり、全家庭が排出するCO2量の2割に相当する。政府は2050年までに温室効果ガスの実質ゼロを目指しており、森林に大きな期待を寄せる。
現代社会は、ストレスなど心の健康に問題を抱えている人が多い。森の中を散策したり、鳥の声や植物に接したりすることで心が安定する作用があるとされる。NPO法人森林セラピーソサエティは、全国の64カ所を「森林セラピー基地・ロード」として認定。長野県では10カ所に基地・ロードを設け、年間4000人以上が訪れている。
人間の暮らしに欠かせない森林だが、安価な輸入木材との競合で国産の木材価格が長年低迷した影響で、山村から人口が流出、管理が手薄となった。1980年に14万6000人いた林業従事者は、40年後の2020年には4万4000人と10万人以上減った。高齢化も進んでいる。
近年の林業を志す若者の参入は明るい兆しだが、それでも人手は足りない。民有林は老木の更新が進まず、CO2吸収力は向上していない。所有者不明の林地も増え、国土を保全する機能が弱体化し、豪雨の時には土砂崩れや洪水が相次ぐ。
政府は、24年度から「森林環境税」を国民から徴収し、森林整備や植林、国産材の利用に充てる。配分も山村を重視する方式に見直した。所有者が分からない森林は、市町村が管理する考えだ。年約600億円の税金を有効活用し、国内の森林を守りたい。
世界では、東京ドーム約100万個分に相当する470万ヘクタールの森林が1年間に消失している。環境への意識を高めるために、まずは近くの「みどり」に関心を寄せるところから始めたい。