豚熱は2018年9月に岐阜県の農場で再発して以降、20都県で89件発生。殺処分された頭数は36万8000頭で、国内の飼養頭数(23年2月時点で895万6000頭)の4%に当たる。
未発生だった九州でも、8月末に佐賀県内の2農場で相次いで確認され、農水省は九州7県をワクチン接種の対象に追加した。これで、北海道を除く全都府県が接種対象となった。
一方、ワクチン接種済み農場でも29件で豚熱が発生。接種で免疫が獲得できる豚は8割とされており、同省は「ワクチンだけに頼ることなく、飼養衛生管理を徹底してもらうことが重要」(野村哲郎農相)と訴える。同省の調査では、飼養衛生管理基準として定める、畜舎ごとに衣服や靴を分けるなど7項目の順守率は上昇しているものの、依然、100%に達していない。
豚熱に加え、同省が有効なワクチンはないとするアフリカ豚熱もアジア各国で発生が続く。訪日外国人の増加などで、農場への侵入リスクの高まりも懸念される。
侵入防止対策の強化を 牛豚等疾病小委・津田委員長に聞く
農水省の食料・農業・農村政策審議会家畜衛生部会牛豚等疾病小委員会の委員長を務める津田知幸氏に、今後求められる対応を聞いた。
農場内へのウイルス侵入を防ぐ対策の強化が不可欠だ。感染予防のため飼養豚へのワクチン接種がされているが、100%免疫を獲得できるわけではない。ワクチンは補助的な対策と捉えるべきだ。
農場の中で最も注意してほしいのが、子豚群がいる分娩(ぶんべん)舎や離乳豚舎。子豚は、母豚由来の免疫が残っているとワクチンの免疫が獲得できない。母豚由来の免疫が消えてからワクチンを打つまでの、免疫がない期間が生まれるためだ。
防疫のために整えたハードをしっかり生かすことが欠かせない。ワクチンを接種したにもかかわらず発生した農場では、例えば、防疫の作業マニュアルを作っていても、従業員への教育が不十分で、守られていないことがあった。履き替え用の長靴を泥だらけで保管している、防護柵を設置したが草刈りをしないためイノシシが近づきやすくなっている、という農場もあった。
まん延源となる豚熱に感染した野生イノシシをゼロにし、飼養豚へのワクチン接種から脱却して清浄国を目指すのか、それとも、感染イノシシはいる前提でワクチンを接種し続けるのか──など、国としての目標が明確ではないのが現状だ。具体的な目標を設け、達成に向けた戦略を考え、実行していく必要がある。
つだ・ともゆき 農研機構動物衛生研究所(現・動物衛生研究部門)所長を経て、2017年から同委員長。明治アニマルヘルス(株)テクニカルアドバイザー、日本豚病研究会会長も務める。