直売所での販売は、農家のインボイス発行が不要となる特例の対象外だ。委託販売の直売所は代理で発行できる特例があるが、制度に登録した課税事業者の農家の農産物に限られる。インボイスを発行できる農家の農産物かどうか区別できるようにレジやラベル、販売管理のシステムを改修した店舗が多い。
問い合わせ「なし」
だが、「インボイス関連の問い合わせは一件もなかった」。東北地方のJAが運営する直売所の店長は10月の状況をこう説明する。直売所でインボイスの発行が必要なのは、飲食店など仕入れ目的の事業者だけ。制度に登録した農家の農産物は自動的にインボイスが発行されるため、混乱がなかった可能性もあるが、店長は「そもそも仕入れ目的の客がほとんどいなかったのだろう」とみる。
この店舗の出荷者は約400人。このうち9割を占めるインボイスを発行できない農家が出荷した農産物の買い控えを懸念していたが、特に差は見られないという。だが、店舗のシステム改修に数十万円の費用がかかっており、「仕方ないが、割に合わない思いもある」とこぼす。
出荷者が500人を超える千葉県の道の駅「みのりの郷東金」も、数十万円の費用をかけてレジで自動的にインボイスが発行できるシステムを導入したが、10月にインボイスに関する問い合わせはなかった。「予想より仕入れ目的の客は少なかった」と受け止める。
後日郵送の負担も
「国が決めたから仕方ないが、正直なところ負担だ」と話すのは、関東地方のJAが運営する直売所の店長。小規模店舗のためシステムは改修せず、レジで利用客から申し出があれば、会計後に別途インボイスを発行する仕組みとした。
購入した農産物がインボイスを発行できる農家のものかどうか確認するなど、発行には時間がかかり、その場で手渡すことができない。そのため、近隣の客には翌日以降に個別に届け、遠方の客には郵送しているという。10月には、飲食店や近隣の温泉旅館など数件に発行を求められた。「数が少ないので、なんとか対応できている」状況という。
BtoCは不要も…対応しない選択肢なく
国税庁は、飲食や小売りなど、主に個人の消費者が対象の取引形態(BtoC)の場合、課税事業者でも「インボイス発行事業者の登録は不要」との考え方を示している。少数の仕入れ目的の事業者のために、インボイスに対応するのは手間や費用が見合わないためだ。
直売所もBtoCの取引形態だが、多くの店舗がインボイス制度に登録している。JAが運営する直売所の場合、JAは他の事業も手がけているため、登録が避けられない。国税庁によると、登録した事業者は、どの事業でも求められればインボイスを発行する義務がある。直売所の事業だけインボイスを発行しないといった対応はできないという。
道の駅の直売所も、運営事業者が複数の事業を営んでいる場合がある。「公共施設なので、他の模範になることが求められる。対応しない選択肢はなかった」(長野県の道の駅)との声もあった。
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