同連は1954年4月に発足、2024年度で創立70周年を迎えた。都府県の生乳生産量が減少する中、同県は西日本で唯一、増産・維持し、近年は年間25万~26万トンとなっている。
16年の熊本地震では、酪農家だけでなく、同連の建物や工場も被害を受けた。しかし、17年度からは7年連続で増収。23年度は売上高が730億円、生乳処理量は約9万6500トンに上る。
好調な業績の要因は、九州全域や本州に営業拠点を設け、販路を拡大したことが大きい。幅広い商品展開も強み。県内に直営の2工場を持ち、牛乳類33点に加えヨーグルト、洋生菓子など計70アイテムの商品を生産する。小売りのプライベートブランド(PB)牛乳や業務用のLL牛乳などの需要も広げている。近年は大手カフェチェーンに加工乳を供給し、店舗で出るコーヒーかすを混合飼料の原料に使うなど、循環型農業にも力を入れる。
隈部洋会長インタビュー
熊本県酪連の隈部洋会長に、好業績を維持する背景と、今後の展望などについて聞いた。
――業績が好調ですね。
2016年の熊本地震の翌年から7期連続の増収で、23年度は売上高が730億円だった。うち乳業は236億円、生乳処理量は約9万6500トンになり、九州生乳販連からの配乳量も増えてきた。
九州全域や本州に営業拠点を設け、販路を拡大してきたことが大きい。生産者直営の工場が2工場あり、年間約25万トンの生乳生産県であることが強みとなっている。小売りのプライベートブランド(PB)牛乳や業務用需要も広がってきた。
――九州外にはどのように販売していますか。
熊本の高品質な牛乳を阿蘇ブランドとして、沖縄や関西方面までチルド物流を展開している。LL牛乳はタピオカ飲料スタンドのブームなどで、業務用を中心に全国に広がった。国の輸出コンソーシアムに加わり、香港を中心に海外へもLL製品を販売し、売り上げは順調に伸びている。今後はキャップ付き容器の導入により、新しい国への展開も検討している。
――大手カフェチェーンとの展開は。
22年から加工乳の納品を始めた。九州全域の店舗で使われており、同社の求める味にするため共同開発した。この縁で、同社のコーヒーかすを、県酪連が運営する完全混合飼料(TMR)センター(八代市)で原料にしている。この飼料を食べた牛から搾った乳がメニューに使われ、持続可能な開発目標(SDGs)に沿った循環型農業になる。
――乳業での利益を生かし、どのような生産者支援を行っていますか。
自給飼料生産や粗飼料購入への支援、後継牛の確保や預託への助成などの、酪農家支援策を実施している。本年度、基金の発動がない配合飼料の購入にも補助がある。乳業の利益で飼料や資材など購買の手数料も下げられるため、熊本の酪農家の手取りは他地域より高く、離農の歯止めになっている。
――「らくのうマザーズ」という愛称が定着しています。
この愛称は、1994に21世紀への基盤確立に向け、CI(コーポレート・アイデンティティー)計画策定の中で決定した。今では「県酪連」より「らくのうマザーズ」の方が親しまれている。「らくのうマザーズ」でバスや路面電車のラッピング広告、新幹線熊本駅のホームドアの広告などを出し、生産者にも喜ばれている。
――酪農経営が厳しい中、乳業の使命や今後の展望をどう考えますか。
乳価が上がり、店頭売価が上がったことで全国的に牛乳消費がやや落ちている。乳業者も燃料や資材・人件費の上昇で苦労していると思うが、酪農と乳業は車の両輪と言われるように、生産者の状況も考慮してほしい。乳価が上がれば生産者も頑張れる。
県酪連としては、生乳の処理量をさらに伸ばし、乳価に貢献できる農協乳業を目指す。酪農家が経営を持続できるようにしたい。また、県には10の酪農専門農協があるが、既に組合員が少数のところもあるので、組織再編を共にやっていく必要がある。
(聞き手・柴田真希都)
くまべ・ひろし 1956年、熊本県鹿本町(現・山鹿市)生まれ。2012年から鹿本酪農協組合長、16年から熊本県酪連会長、21年から全酪連会長(いずれも現職)。18~21年には九州生乳販連会長も務めた。家族と共に同市で乳牛70頭を飼う。