世代の話をしよう。2019年ごろだったと思うが、都内でJR山手線に乗っていると、液晶モニターに持続可能な開発目標(SDGs)の映像広告が流れていた。「ああ、JR東日本もこんな広告を」と思っていたら、小学校低学年であろう男の子が家族と乗ってきた。その子がチラッとモニターに目をやって「あ、えっすでぃーじーず!」と歌うようにつぶやいた。当時はまだSDGsとは何かということが一般にはあまり知られていなかった頃で、だからこそJRがSDGs広告を流していたのだ。まだ幼さの残る児童がCMに反応したことに私は衝撃を受けた。なぜなら彼は「SDGs」を「えすでぃーじーえす」ではなく「えすでぃーじーず」と正しく読んだからだ。つまり彼はSDGsのことを学校で習っているのだ! 朗らかな口ぶりから、SDGsをポジティブに受け止めているようだ。まだSDGsの読み方も知らない大人が大半なのに!
日本の小学校でSDGsが正式に登場するのは2020年だが、実際にはそれ以前から何らかのSDGs教育が始まっていた。何が良くて何が悪いという価値観を定着させるために、教育ほど強力なものはない。それが低学年からであるほど定着率は高くなる。いま小学校からSDGs教育がなされているということは、この子たちが大人になったとき、SDGs的価値観をよしとする「SDGsネイティブ世代」がデビューするということだ。この世代は「みどりだから買う」層なのである。19年に山手線内で私が見かけた子が小学3年生だったとすれば、今15歳。私の勤める短大では学生の一定割合が環境問題や食品ロスに関心が強いが、その割合はどんどん上がっていくはずだ。そんな「SDGsネイティブ世代」の台頭はもうすぐだが、いま彼らが買うべき物は売り場にあるだろうか。それが問題だ。
やまもと・けんじ 1971年生まれ。農畜産物の商品開発や情報発信を手がける(株)グッドテーブルズ代表。新渡戸文化短期大学のフードデザイン学科長を務める。
食・農の最前線に立つ4人が「持続可“農”なミライ」をキーワードにリレーコラムを執筆します。