[論説]問われる自民党再生 農政への信頼回復急げ
岸田首相は所信表明演説などで「新しい資本主義」について、「我々(われわれ)には、協働・絆を重んじる伝統や文化、三方良しの精神などを、古来より育んできた歴史があります。だからこそ、人がしっかりと評価され、報われる、人に温かい資本主義を作れる」と訴えてきた。過度な規制改革への疲弊感が漂っていたJAなどの農業界も、家族農業や中山間地域を重視した農政への転換を期待した。
だが、農家の高齢化や担い手不足、生産基盤の弱体化に依然として歯止めがかからず、肥料や飼料など資材価格の高騰は長期化し、大規模農家の経営をも直撃した。食料自給率もカロリーベースで38%と低迷したまま、改正食料・農業・農村基本法の柱となる食料安全保障の確保への道筋も見えない。農業分野での「新しい資本主義」の具現化が問われている。
成果を上げた部分もある。岸田政権は2025年度予算編成に向けた経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)に、自民党が求めていた初動5年間を「農業構造転換集中対策期間」とすることを明記した。改正基本法の初年度でもあり、25年度農業予算の思い切った増額を求めたい。
「新しい資本主義」は、新自由主義へのアンチテーゼであり、政府の規制改革推進会議が主導する過度な農業改革をけん制する動きにもなり、同会議が“暴走”する姿は見られなくなった。
こうした背景には、岸田首相が自民党農林議員の議論に耳を傾け、党と共同歩調で農政を展開してきたことがある。同会議などで先行して結論を出し、官邸主導でJAを含め、農業分野の規制改革議論を断行することはなかった。
改革の必要性は否定しないが、農業には中山間地域を含めて多様な現場があり、机上で考えたように単純にはいかない。だからこそ、現場の声を丁寧に吸い上げ、党の議論を踏まえながら、政府として農政のかじ取りをしていくことが今後も重要となる。現場がついていけないような改革の断行は必ず失敗し、肝心の農業農村は衰退していくことを為政者は肝に銘じるべきだ。
政治とカネの問題が首相の不出馬で払拭されるわけではない。次期総裁にはこの問題にけじめをつけ、共感を得られる新しい党の姿を示すことが求められる。