[論説]外国人の労働災害 安全配慮は経営者責任
外国人労働者は2024年、230万人を超えて過去最多となった。それに比例して外国人の労災事故が増え続け、厚労省によると昨年は過去最多となる6244人が死傷した。業種別では製造業、建設業、商業が多い。農業・畜産・水産業は322人で、うち死者は4人に上った。特定技能など専門性の高い在留資格を持つ人が過半を占めた。
特に農機による事故は、転倒や転落などで重傷化しやすく安全配慮が必要だ。
ただ、外国人労働者の場合、経営者側が労災と認めないケースもあり、正確な実態はつかみづらいという。厚労省は、背景に職場での安全教育やコミュニケーションが不足していると指摘。企業側が意図的に「労災隠し」をしている悪質な場合もあるという。
日本で働く全ての外国人労働者は、労災保険の加入対象で、全額医療費や休業補償などが受けられることを周知すべきだ。個人経営の農家の場合は従業員が4人以下なら、労災保険の加入は任意となる。だが従業員を1人でも雇えば、事故に遭った場合は経営者側が全額、治療費などを負担する義務が生じる。こうした暫定任意適用事業は早急に撤廃する必要がある。JAなどによる労災保険の加入推進も欠かせない。
5月に開かれた日本農業労災学会で報告した福岡県久留米市の宇佐川農園は、労働安全に配慮した経営を最優先に据える。外国人実習生4人に対し翻訳機能アプリを使って指示や報告を徹底。作業手順も分かりやすく伝える。就業時間内に個人面談日を設け、悩みに耳を傾ける。労災保険などにも加入している。
27年度からは、外国人技能実習制度に代わり、新たな受け入れ制度「育成就労」が始まる。農業では、稲作や肉用牛を含め全分野で外国人の受け入れが可能となる。一定年数の就労後は「転籍」も認める方向だ。北海学園大学の宮入隆教授は「農業分野で、育成就労によって外国人の働く場面が広がれば、事故のリスクが高まる」とし、日本語教育や作業環境に応じた安全教育の重要性を指摘する。
外国人労働者の人権と働く環境を守るために、まずは育成就労の法制度を整えるべきだ。多言語に対応した農作業安全教育や労災パンフレット、安全アプリの普及も欠かせない。違いを認め合い、共生の道を探っていこう。