[論説]炭素の土壌貯留 環境貢献の価値 全国へ
4パーミル・イニシアチブは、世界の土壌表層の炭素を年間0・4%(4パーミル)増やすことで、人間社会が排出する純増分を相殺し、CO2排出を実質ゼロにできるという考え方だ。2015年の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議で、フランス政府が提唱した。
山梨県は20年、国内の自治体では初めて同イニシアチブに賛同し、JA南アルプス市、JAフルーツ山梨、JAふえふきなどと連携し取り組んでいる。炭素貯留で育てた作物を県は「やまなし4パーミル・イニシアチブ」として認証。126団体・個人が5384ヘクタール(5月末)で認証を取得した。県内の耕地面積の2割強に相当する。
県によると、果樹の剪定(せんてい)枝を無煙炭化器で炭にして園地にまいたり、野菜や水稲栽培では草や稲わらを畑にすき込んだりすることで土壌中に有機物が増え、土が豊かになるという。土が団粒構造となり空気の層が形成され、保肥力が向上。作物の収量が増えて干ばつ被害の低減にもつながり、環境面だけでなく農家側にもメリットがある。全国には放置竹林などで困っている地域は多く、炭化して土に埋めることで良質な土づくりにつながる。山梨方式を全国に広げたい。
「4パーミル」によって作られた農産物は、消費者側の理解も得やすい。山梨県は7月中旬、首都圏で同認証制度を取得した農産物の販売フェアを開催。青果店を展開するサン・フレッシュグループや澤光青果、イオンリテール、無印良品と協力し、認証した桃を販売したところ、売れ行きは好調だったという。
昨年のアンケートでは、取り組みを理解して購入した人の6割が「多少高くても環境に配慮した農産物を買う」と回答。環境問題への意識が高い層に広めたい。
内閣府が23年に実施した「食料・農業・農村の役割に関する世論調査」で、環境に配慮した生産手法について消費者の意識を聞いたところ、「地球温暖化を防止するために推進すべき」が58%を占め、次いで「持続可能な未来のための目標であるSDGsの流れを踏まえて推進すべき」も43%に上った。
温暖化が進む中で、炭素貯留によって豊かな土を作り、環境に優しい農産物で消費者の理解も得ながら、農家所得の向上につなげよう。