[論説]熱中症の恐ろしさ 作業時間見直し命守れ
速報値の搬送者数7万6527人のうち、農林水産業の作業中は1646人(2%)。割合として少ないが、農作業は高齢者が1人でする場合が多く、危険性は高い。
農水省が2020年までの10年間で農作業中に熱中症になって死亡した257人について分析したところ、多くが1人で作業していたとみられる。9割近くが70代以上の高齢者で、個人農家の場合は単独での作業が多い。高齢になると温度に対する感覚が弱まり、草刈りなどの作業に没頭していると思った以上に体力が消耗し、気付いた時には症状が進んでいる恐れもある。複数人での作業が難しい場合は午前、午後と、定期的に水分や休憩をとってほしい。
日中の酷暑を避けるため、早朝から正午までを勤務時間にする工夫で、乗り切ろうとする農業法人もある。新潟市で稲作を中心に経営する法人では夏場、朝4時に集合して打ち合わせを開始。作物の生育調査や追肥などを進め、昼までに作業を終わらせている。
また、別の法人では、昨年の猛暑と渇水を受けてスポーツドリンクを共用の冷蔵庫に常備し、好きな時にいつでも飲めるようにした。従業員にとっては日々の購入費用以上に、いつでも冷たい飲料を飲める安心感がある。従業員の命と健康を守るのは経営者の責務だ。労災保険の加入など細やかな心配りが重要だ。
地球温暖化が進み、今年は7月の月平均気温が気象庁の統計開始から126年間で最も暑くなるなど、厳しい環境が続く。3カ月予報では、10月までは高温となる見通しだ。環境省が出す「熱中症特別警戒アラート」に注意し、作業を組み立てよう。
日本気象協会が進める「熱中症ゼロへ」によると、後遺症は軽症でも残ることがある。倦怠(けんたい)感や目まい、頭痛などが数週間から半年、場合によっては数年続くこともあるという。重度になると脳や臓器への後遺症も懸念される。目まいや足がつるなどの軽度の段階では、まずは体を冷やし、水分と塩分を取る応急処置で回復しやすい状況とされるが、我慢すれば吐き気などの中等症に悪化してしまう。判断力も低下し、対応も困難になる。
熱中症は死に至る病だが、予防や対策で防げる。残暑は今後も続く。地域で声を掛け合い、命を守ろう。