[論説]高齢者の農福連携 生涯現役で地域に活力
厚生労働省によると、2023年の平均寿命は女性87・14歳、男性81・09歳で、ともに3年ぶりに前年を上回った。女性は0・05歳、男性は0・04歳上昇した。同省は新型コロナによる死亡率の低下などが寄与したと分析する。海外と比べると女性は1位、男性は5位と高順位だ。
コロナ禍を経て平均寿命の延伸が復活したものの、高齢者の生活は課題が山積している。社会保障費は逼迫(ひっぱく)し、介護保険サービスも縮小傾向にあり、少子化や核家族化を受けて高齢者の単身世帯が増加し、引きこもりなどによる孤立化が心配される。
こうした課題にどう向き合えばいいのか。大切なのは、自ら健康管理に努め、地域とのつながりを深める姿勢だ。高齢者による農福連携に解決の糸口はある。農作業で頭と体を働かせ、収穫物を直売所に出荷したり近所にお裾分けしたりすることで、収益や感謝、喜びを得て、やりがいが見いだせる。心身の健康を維持し、介護予防にもなる。
農業には、現役世代が主となる生産活動の他にも多様な面がある。高齢者がさまざまな側面から農に関われば、その魅力と価値を発信できる。
例えば、珍しい野菜や伝統野菜の栽培に挑戦してみてはどうだろう。直売所に出荷すれば商品の幅を広げ、地元の食文化をPRできる。農業体験として地域の子どもたちに作業を手伝ってもらうのもいい。作業の大変さや喜びを伝える食農教育につながり、世代を超えた交流が芽生え、互いに良い刺激を生むだろう。
農業を通して高齢者が社会参画を続けることで、地域との絆が深まり、孤立を防ぐことにもなる。
JAの支えも必要だ。軽労作業で済む品目の提案や、地域住民との架け橋として尽力し、農業に携わる可能性を広げ、魅力と価値を高める一翼を高齢者に担ってもらおう。誰かの役に立つことで、人は生きがいを見いだせる。
年を取っても、できるだけ長く自立して役割を果たしたい――。それは誰もが持つ願いだ。団塊の世代が後期高齢者になり切り、超高齢社会が一気に加速する2025年が目前に迫る。世界トップクラスの長寿国として、高齢者が生涯現役として活躍できる舞台は農村にこそある。平均寿命と共に健康寿命の延伸を進めていこう。