[論説]危うい果樹産地の未来 基盤維持へ対策強化を
来春に策定する次期食料・農業・農村基本計画を議論する、農水省の食料・農業・農村政策審議会企画部会で示された。同省の予測によると、法人などの経営体数は2000と横ばいだが、主業経営体(農業所得が主で65歳未満の世帯員がいる個人経営体)は3万9000から1万9000に、準主業(農業より農外所得が多い65歳未満の農家)・副業的経営体(65歳未満の農業従事者がいない農家)は計8万8000から同4万3000へと、いずれも半減する見通し。
経営面積も、規模拡大を考慮せず、20年時点の1経営体当たりの経営面積を基にして試算すると、30年の全国の果樹経営面積は11万ヘクタールと、20年(20万ヘクタール)に比べてほぼ半減するとしている。
こうした予測を公表したのは、法人経営を除いて経営規模はほぼ変化せず、果樹特有の苗の植樹から収穫に至るまでの未収益期間を乗り越える資本力が乏しく、新規就農をためらうケースが多いことが背景にある。加えて、①傾斜のきつい中山間地域での栽培が多く、労働生産性の向上が難しい②作業のピークが一時期に集中し、通年雇用が難しい③スマート農業技術の開発・普及が遅れている──などが一因となっている。同省は「果樹は規模拡大、新規就農・参入、生産性向上、全てに課題を抱えており、施策の抜本的な強化が必要」とみる。
一方、国産果実の価格は堅調に推移している。23年の卸売価格は1キロ467円、14年比で5割高のため「参入すれば収益を上げることが可能」(同省)。果実は健康を支え“もうかる作物”と発信し、親元就農や新規就農を呼び込み、担い手を育てたい。
技術改良も進めるべきだ。農研機構は6月、リンゴの新品種「紅つるぎ」を発表した。枝が横に広がらず、樹形が円柱状になり、大幅な省力化が期待できる。ミカンでは静岡県農林技術研究所とJAしみずなどが、温州ミカンの「片面結実栽培」の実証を進める。樹冠を縦半分に分け、毎年交互に着果させる手法で、慣行の1・5倍の収量を確保できる。摘果と剪定(せんてい)時間の半減へ、27年度のマニュアル公開を目指す。
現状のまま推移すれば、40年には日本から果樹農家がいなくなるという試算もある。あらゆる手を尽くして、産地のてこ入れを急ぐべきだ。