[論説]ふるさと納税の多様化 農業支援で産地に力を
ふるさと納税を活用した農業支援は、総務省の非公開資料や大手ポータルサイトの掲示内容を日本農業新聞が独自に集計して明らかにした。15日時点で4道県と83市町村(31道府県)が、暴風雨などの影響で出荷できずに規格外となった農産物を返礼品にしたり、支援に必要な経費をCF型ふるさと納税で集めたりと急速な広がりを見せている。
果実栽培が盛んな長野県飯綱町とJAながのは、凍霜害で表面に傷が付くなどしたリンゴを「感謝りんご」と命名。光センサー選果機を使い、果肉の腐れがなく、糖度12以上の果実を選別し、ふるさと納税の返礼品にした。
規格外品は通常、加工用などとして格安で売られるが、町とJAは「見た目で劣っても味や品質には自信がある」と、1キロ300円と一般的な規格外品より割高で設定。2023年度のふるさと納税で同町に集まった寄付額は8億円を超え、リンゴ(贈答用含む)を返礼品にした自治体の中で最高額となった。まさに「災い転じて福となす」で、農家所得を向上させた好例だ。気候変動で規格外品が多発する中、こうしたアイデアで産地振興につなげたい。
一方で、農業支援にふるさと納税を活用する自治体の多くが、財政的な苦境に立たされている。23年度のふるさと納税受け入れ額が全国1位の宮崎県都城市は本年度、牛や豚、鶏、馬の全生産農家・法人約1000戸を対象にした飼料価格高騰対策の助成事業費の7億円全額を、ふるさと納税による寄付金で積み立てた基金で賄った。これまでは、国の「新型コロナ対応地方創生臨時交付金」を充当してきたが、コロナの規制が緩和され、本年度から交付金がなくなったためだ。「コロナは収束したが、飼料などの資材高は収束しておらず、むしろ高止まりしている」と市畜産課。価格面で国の「配合飼料価格安定制度」の基準を満たせないため補填(ほてん)金がなくなり、同市では毎年100戸前後の畜産農家が離農、ふるさと納税が「地場産業と食を守る命綱」となっているという。
気候変動に伴う異常気象の常態化や、紛争など世界情勢のリスクが食料の安全保障を脅かす。ふるさと納税で規格外品の活用や農家支援を進めるのも一手だが、寄付金頼みには限界がある。問われているのは、持続可能な農業を実現する政府の本気度だ。