[論説]減らない農家の自殺 弱音吐ける場つくろう
厚生労働省によると、自殺者数は人口比で「世界最悪」といわれた03年の3万4427人をピークに減少し、15年からの10年間は2万人台で推移している。それでも、先進7カ国(G7)の中で、10万人当たりの自殺者は16・5人と最悪で、2番目に多い米国の14・6人を上回った。
同省が発表した24年暫定値でも改善の兆しは見られなかった。外国籍を除いた自殺者は2万268人。うち農林漁業者354人の内訳は、家族経営などの自営が183人、法人などで働く被雇用が171人とほぼ同数だった。年代は、家族経営で60~69歳、法人などで働くケースは40~49歳が最も多かった。
自殺の場所は「自宅」が全体の6割を占め、「乗り物」「海・河川」「高層ビル」などと続き、「田畑」も88人いた。職業別集計はないが、88人は農業従事者である可能性が高い。80代が最多の25人となり、60歳以上が7割近くを占めていた。
警察は病院以外で見つかった遺体は、他殺の可能性を視野に「変死」事案として調べる。ただ、現場や遺体の状況から自殺と判定しても、その動機まで突き止めるのは容易ではない。本人が死亡していることに加え、遺族も口を閉ざす傾向にある。
だが、自殺につながった原因や動機が詳細に分からなければ、有効な手だては見つからない。悲劇の連鎖を絶つには、遺族の理解と協力を得て警察庁や厚労省、農水省などが省庁の枠を超えて命を守る対策を強化する必要がある。
自殺の原因・動機は大きく分けて、病気などの「健康問題」が突出して多く、次いで借金などの「経済・生活問題」、夫婦不和などの「家庭問題」が続く。ここに解明の糸口を見いだせないか。
健康面で不安を抱えていれば心もふさぎがちになり、自らを追い込んでしまう。農村では過疎高齢化が進み、つながりは希薄になりがちだ。JAや商店街の空き店舗を活用し、お茶を飲みながら日頃の悩みや不安を打ち明けられるサロンやカフェを開けないか。誰かがそばで黙って聞いてくれるだけでも、気持ちの整理がつく場合もある。
小中高生の自殺も527人と過去最悪となった。誰かと比べるのではなく「自分は自分でいい」という自己肯定感をどう育むか。日本の未来も問われている。