[論説]ウクライナ危機3年 食料安保へ政治の出番
ロシア、ウクライナは共に世界有数の穀物輸出国。紛争は世界的な食料供給を乱し、エネルギーや食料価格の高騰を招いた。小麦などが手に入りにくくなった途上国などでは、エネルギー高と食料高の二重苦が続いている。
トランプ米大統領とロシアのプーチン大統領が電話会談で停戦交渉を始めることで合意したことを受け、関係国の駆け引きが慌ただしくなってきた。注目したい。
懸念されるのは、交渉が実質、米ロ2国間だけで進められていることだ。トランプ大統領は現状のままでの停戦で、ロシア寄りの合意を目指す可能性が高いとみられる。ウクライナのゼレンスキー大統領が警戒するのは当然だ。
ウクライナでは1万2000人以上が犠牲となり、難民は690万人に及ぶ。これ以上、犠牲者を増やすべきではない。
ウクライナ危機は、日本の食と農業にも大きな影響を与えている。肥料や飼料、燃油など多くの生産資材を輸入に依存する日本は、資材高騰が長期化し、農畜産物への価格転嫁が進まず、農業経営を直撃する。
紛争前の2020年を100とした農水省の農業生産資材価格指数は、紛争が始まった22年以降、急激に上昇。24年は過去最高だった23年より低下したが120を超え、高止まりしている。
中でも種苗や農薬、農機具、光熱動力費は、過去最高となった。厳しい経営環境は続いている。餌高による酪農・畜産経営は深刻化し、指定生乳生産者団体に販売委託する酪農家は1万戸を下回った。
肉用牛の生産費も紛争後膨らみ、肉牛産地からは「牛海綿状脳症(BSE)を超える危機感がある」という声も上がっている。23年度の食料自給率は38%(カロリーベース)と低迷が続いている。
政府は昨年、食料・農業・農村基本法を改正し、国民が安定して食料を入手できるよう食料安保を柱に据えた。一定に評価できるが、農業従事者や農地は減少し、生産基盤の弱体化は急速に進んでいる。
生産基盤の強化は待ったなしだ。国民の命は防衛費の拡大だけでは守れない。食料安保を確保し、思い切った財政支援で、衰退が進む農業・農村を立て直すことが急務だ。各地の農家も、声を上げ始めた。国難の今こそ、政治が問われている。