[論説]大震災14年の課題 被災地復興を自分事に
農水省によると、東日本大震災では農地2・6万ヘクタール、農業用施設1万8146カ所などが損壊し、被害額は1兆1799億円に及んだ。昨年3月末現在、農地は96%、農業集落排水施設は99%が復旧し、インフラ機能もほぼ回復した。原発事故で長期間の避難を余儀なくされた福島県の被災12市町村についても、2025年度末までに1万ヘクタールで営農再開するという国の目標に対し、86%(8599ヘクタール、23年度末)で営農を再開した。
一方で、課題も残る。震災前の10年の農業産出額を100とした場合、全国は111(9兆142億円)まで伸びたが、福島県は85(1970億円)にとどまる。農産物の納入先によっては、いまだに福島県産に抵抗感を示す食品業者もいるという。科学的根拠のない風評被害には、官民で毅然(きぜん)と対処していくことが求められている。
中間貯蔵施設で保管されている除染土についても、45年までに県外最終処分すると、中間貯蔵・環境安全事業株式会社法で定めているが、全国的な議論が進んでいない。福島だけに問題を押し付けることはあってはならず、政府は責任を持って対処すべきだ。
国が定めた第2期復興・創生期間は25年度末で終わる。被災地の農業再生に向けて課題が残る中、「第3期」に向けた議論は始まっている。JA福島中央会は「税金を財源とする以上、産地基盤の確立など成果が求められる」とする。農業再生に向けた産地の決意に国は応えてほしい。
原発被災12市町村では、住民の帰還がいまだに進んでいない地域もある。南相馬市は居住率95%と、5000ヘクタール以上の農地で営農を再開した一方、中山間地域である飯舘村の居住率は33%にとどまる。
とりわけ子育て世代は、教育環境や進学先を考慮し、避難先に住居を構える場合が多い。被災地の農業を10年以上取材し、自らも飯舘村に移住した行友弥氏(農林中金総合研究所客員研究員)は「子育て世代の帰還が遅れた結果、地域をまとめる次世代のリーダーが育っていない」と指摘。「『かわいそう』だからではなく、自分事として被災地に関心を持ってほしい」と提起する。
被災地で起きた急激な高齢化や人口減少は、いずれ全国でも起こる課題となる。被災地復興を自分事として捉え、関わりを持ち続けよう。