[論説]価格形成法案 国会へ 再生産可能な制度必ず
改正前の基本法は、農産物価格に需給と品質を反映する市場原理の導入を明確化し、従来の価格政策からの転換を打ち出した。しかし、その後、デフレ経済下で食品価格は低迷。一方でウクライナ危機以降、肥料や飼料などの資材費や人件費が高騰し、農家経営は苦境に陥っている。
このため政府は食品等流通法などを改正し、来年4月の全面施行を目指す。買い手に対し、誠実に価格交渉に臨むよう努力義務を課し、対応が不十分な場合は国が指導や勧告などを行う。価格交渉の材料になる「コスト指標」も作成する。適正な価格形成は、生産現場にとって「悲願」であり、改正案の閣議決定は持続可能な農業に向けた大きな一歩と受け止めたい。
ただ、安心はできない。実効性のある制度に仕上げられるかは、国会での議論にかかっている。
焦点の一つがコスト指標だ。農相が指定する団体が、小売りなど関係者の意見も踏まえながら作成する。生産コストが高い小規模経営や条件が不利な中山間地域など多様な農業形態に配慮した指標とすることが欠かせない。一方、小売り側の納得感を得る必要もあり、着地点を見いだすのは容易ではない。
対象品目も焦点となる。現在は牛乳、米、野菜、豆腐・納豆を検討している。幅広い品目指定は不可欠だが、小売り側からは「対象品目は限定すべきだ」との声も根強い。
改正案では、価格形成に向けて、国として国民の理解を深める役割を明記した。物価の高騰が続く中、抵抗感を抱く消費者もいるだろう。いかに理解を得るか、官民挙げて知恵を絞る必要がある。
米を中心に農産物価格は上昇してはいるが、適正な価格形成の仕組みが求められる状況に変わりはない。農水省がまとめた1月の農業物価指数(2020年=100)では、生産資材が122・3と高水準が続く。同省が先月開いた地方意見交換会でも、生産者から資材高騰による厳しい実情を訴える声が相次いだ。
改正基本法は価格形成について、「持続的な供給に要する合理的な費用が考慮されるようにしなければならない」と定めている。農家が再生産でき、安定的に供給するためには、どんな仕組みが必要か。直接支払いの拡充を含め、与野党は徹底的に議論を戦わせてほしい。