[論説]問われる首相の見識 農政の停滞は許されぬ
自民党が引き起こした裏金問題で、国民の政治不信はいまだに拭えていない。その試金石となる企業・団体献金の扱いを巡る与野党協議も膠着(こうちゃく)状態にある。国民は物価高に苦しみ、農業者も資材高を価格転嫁できず経営不振にあえぐ。首相はそこに思いを寄せているのか。今回のような疑念を招く行動に猛省を求める。
首相は党総裁として、自らの指示で先の衆院選初当選議員15人に、10万円相当の商品券を渡していたことを認めた。経費は私費で、議員と家族へのねぎらいであり、政治活動でないこと、また首相の選挙区と無関係なことから、政治資金規正法や公職選挙法に抵触しないと説明。違法性を否定した。ただ「大勢の方々に迷惑、心配をかけていることは非常に申し訳ない。深くおわびする」と陳謝した。
政治資金規正法は、政治活動に関連する金銭等の政治家への寄付とその受領を禁じている。ただ政治活動の解釈はグレーゾーンで抜け穴が指摘されてきた。今回の商品券については官房機密費からの支出を否定したが、与野党からは、さらなる説明や追及の声が上がる。なにより、政治資金の透明化が問われる中で、最悪のタイミングだ。クリーンな政治を自負していた首相だけにイメージダウン、求心力の低下は避けられない。
自民党内からは、この間二転三転した高額療養費への対応、後手に回る年金制度改革などを巡り、公然と退陣要求が出始めている。今回の一件もあり、世論の支持次第では、夏の参院選の「顔」で戦えるのか、という党内不満が噴出しかねない。そうなれば政局は一気に流動化し、不安定化する。
米騒動や生産基盤の弱体化など農政課題は山積している。農畜産物の適正な価格形成を目指す関連法改正案の審議も始まる。外交面では、米国トランプ政権の日本市場への農畜産物への開放圧力の高まりも懸念される。
国会審議が停滞することになれば、国民生活、農家経営への悪影響は避けられない。そうでなくても少数与党で、綱渡りの国会運営を強いられている状態だ。
石破政権は、「納得と共感が得られる政治」を掲げて発足した。首相にはいま一度、その原点に立ち返り、国民のための政策を遂行することを強く求める。