[論説]「酪肉近」が描く生乳需給 国の責任で機能強化を
20年3月に策定した前回の「酪肉近」から、酪農と畜産を巡る状況は一変した。コロナ禍に伴う需要減退で脱脂粉乳の在庫は積み上がり、牛の枝肉価格も下落。ウクライナ危機に加え、円安により燃油や飼料などの生産資材価格が軒並み高止まりし、経営は大きな打撃を受けている。
こうした情勢を受け、生乳の30年度目標数量は23年度並みの732万トンに定めた。だが、現場の生産意欲をつなぎとめる“メッセ―ジ”となったのか。主産地、北海道からはJA道中央会の樽井功会長が「生産現場にとっては停滞感、閉塞感を感じる」とし、「需要にばかり力点を置き、食料安全保障の確保・強化という点にほとんど触れていない」と指摘する。
生乳1キロ当たりの収支を向上させることが、酪農経営の安定につながる。酪肉近では収入と支出の双方から、現状分析と方向性を示した。
収入面では需給調整が鍵となるが、17年に改正された「畜産経営の安定に関する法律」は、酪農家の間で不公平感を生んだ。同法では需給が緩んだ時、指定団体以外に生乳を出荷する酪農家は自由に販売先を選べ、価格が高い飲用向けに販売できる。一方、指定団体に出荷する酪農家だけが、生産抑制に取り組む形となった。酪肉近は、生乳の需給調整を「国の施策」として確保・拡充していくことが課題と明記した。
需給調整への協力を補助金支給の要件とする「クロスコンプライアンス」の強化も掲げたが、対象外となる補助金もあり、現場の不公平感解消はこれで十分とはいえない。同法の影響で、現場が混乱している。国の責任で生乳の需給調整機能を強化し、同法の見直しへ踏み込んでほしい。
経営を圧迫する飼料コストの軽減も喫緊の課題となる。酪肉近では「飼料は、国産利用割合の高さに従い、経営が安定する相関傾向がある」と記す。輸入飼料への依存から脱却し、国産飼料を主体とした持続可能な酪農・畜産経営へ切り替える後押しが必要だ。
収支を改善し、利益を確保しないことには、前向きな投資はできない。酪農家からは「施設の老朽化が進むが建設費は上がり、更新できない。地域崩壊につながる」と悲痛な声が上がる。予算編成の指針「骨太方針」をはじめ、十分な財源を確保し、地域の生産基盤を強化すべきだ。