[論説]備蓄米の放出 国の責任で市場正常に
政府の備蓄米は、全農など大手集荷業者に入札方式で販売した後、卸売業者を経て、小売業者や中・外食事業者などに供給する。農水省は流通の混乱を受けて、備蓄米の放出量を31万トンに拡大し、25年産米の収穫が始まる夏までは毎月入札会を開き、備蓄米を放出する方針を示す。
全農などの集荷団体の役割は、米卸からの注文に沿って精米工場などに備蓄米を配送する。スーパーや中・外食業者に供給されるまでに、事務手続きなどを含めて2、3週間はかかる。それでも全農はスムーズな流通に向け米卸への備蓄米の引き渡し時期を前倒し、注文数量に最大限対応できる輸送体制を構築していく。第2回入札までに落札した備蓄米を卸の注文に応じ6万3266トン出荷し、今後ペースを加速する計画だ。
4月28日~5月4日の店頭価格は、前週比で5キロ当たり19円安の平均4214円と18週ぶりに下落した。備蓄米の放出で価格上昇は落ち着いたものの、消費者の間には「まだ高止まりしており、全農が米を抱え込み、価格をつり上げている」との誤解もある。
全農などの集荷業者が卸売業者に販売する段階で上乗せした金額は、60キロ当たり必要経費分の1000円程度で、卸の段階で上乗せされた金額の10分の1以下に過ぎない。
仮に政府が、備蓄米を全農などの集荷業者を介さず卸売業者に直接販売すれば、「(卸売業者など)数百社が入札に参加し、当然価格は高騰することが予想される」(江藤拓農相)。その上、米の引き渡しにかかわる事務手続きや倉庫からの搬出作業が煩雑化し、供給までの時間やコストがかえって膨大になることを消費者は理解してほしい。
もともとは流通上の目詰まりが発生し、全農などの集荷業者などに米が集まらず、混乱が大きくなり、その対策として備蓄米の放出に至ったはずだ。だが、政策の目的がいつしか「店頭価格の下落」に変節し、価格が下がらない責任を全農などJAグループに押し付ける動きが一部あるが、それは大きな誤りである。
店頭価格が下がらない背景には、値上げで米の販売ペースを抑え、在庫を抱えておきたいという卸やスーパーの思惑もある。政府は、どこで米が滞り、価格上昇を招いているのか、消費者に届くまでを詳細に調べ、課題があれば早急に是正すべきだ。