[論説]政府備蓄米の随意契約 適正価格の実現を急げ
農水省はこれまで競争入札で備蓄米を放出していたが、今回は政府が、ネットやスーパーなど小売業者を任意に選び、直接売り渡す随意契約とする。これにより、従来よりスピード感を持って安い価格で備蓄米を店頭に並べるとの触れ込みだが、懸念材料が二つある。
一つは備蓄米放出による需給の急速な緩和で、米価の下落圧力が生じることだ。3回行われた備蓄米の放出量は計31万トン、今回の随意契約は一気に30万トンで、備蓄米の放出量は計61万トンに上る。
同省によると、JAや米穀卸などが抱えている民間在庫は6月末で158万トン。そこに政府の随意契約に伴う備蓄米30万トンが加わる。さらに既に放出された備蓄米31万トンを含めれば民間在庫量は219万トンとなり、米価安定の適正水準とされる180万~200万トンを上回る見込みだ。
需給見通しは、農家や産地が主食用米をどの程度生産すればいいのかを決める際の判断材料となる。同省が毎年責任を持って策定し、農家に示している。需給見通しが誤っていないとすると、適正水準の180万~200万トンを上回り、備蓄米を過剰に放出したことになる。これは政策の矛盾といえないか。
同省によると、25年産の見込み生産量は719万トンで、食料・農業・農村政策審議会食糧部会が見通した適正生産量683万トンより36万トン、前年産比では40万トン増える。備蓄米放出を含めて、来年6月末の民間在庫量は250万トンを大きく超える水準まで積み上がる計算になる。概算金の関係もあり、25年産の米価は維持されたとしても、26年産は米価が下落する恐れがある。
このままでは農家は安心して米を作れず、将来を見据えた投資や規模拡大はできない。米価の乱高下は農家が最も不安を感じることであり、政府は店頭価格の値下げばかりを進めるのではなく、農家が再生産価格を確保できる適正な価格形成を探るべきだ。具体的な対策と道筋を急いでほしい。
二つ目の課題は、24年産米と過去3回放出された備蓄米、今回放出される随意契約分の備蓄米と「1物3価」が生じることだ。流通、小売り段階での混乱が懸念される。これでは消費者も農家も流通も混乱することになる。米価の乱高下より、適正価格による長期安定を求めたい。