[論説]米輸入を巡る農相発言 国内の基盤強化が先だ
問題の発言は、米の価格抑制対策に絡み「米の輸入をもっと柔軟に受け入れるという選択肢はあるのか」という質問に答えた。これに対し、小泉農相は、協議が進む日米関税交渉について「安易にカードを切ってもらいたくない。それは、やはり日本の守らなければいけないものがあります」と語った一方で、「現時点であらゆる選択肢は否定しない。あらゆるカードは使う覚悟を持ってできることは全部やる。そういった思いで向き合っているというふうに思っていただきたい」と述べ、米の輸入拡大を選択肢とすることを否定しなかった。
自民党食料安全保障強化本部(本部長・森山裕幹事長)などは4月、「農林水産品を犠牲にするような交渉方針は断じて受け入れられない」などとする決議文を当時の江藤拓農相らに申し入れた。
森山幹事長は「令和の米騒動」を踏まえながら「足りないから輸入するという話にはならない」と繰り返し、米の輸入拡大を否定してきた。
赤沢亮正経済再生相は27日の会見で、前日夜の小泉農相発言について「承知していない」とした上で、農業を犠牲にしないという方針は「石破茂首相と共有している」と述べた。小泉農相の発言は、自民党の決議や政府の交渉方針にも反するのではないか。
各国の大使館は、政治家の発言などを本国に報告することも重要な業務で、在日米国大使館は、小泉農相発言をトランプ大統領らに伝えているだろう。30日(米国東部時間)には、4回目の日米関税交渉の閣僚協議があり、日本農業にとって不利になるような発言は慎むべきである。
米については物価対策として政府備蓄米の放出が注目されているが、この対応が落ち着けば“本丸”の米政策見直しが焦点となる。石破政権は衆院で少数与党であり、野党の協力なくして農政論議は進まない。小泉農相が、米輸入拡大も選択肢として否定しないという発言は、野党をはじめ現場の農家から反発を買うのは必至だ。
政治家の言葉、特に大臣の一言は重い。農相は27日の衆参両院の農林水産委員会で就任後初の所信を表明し、日米交渉に当たっては「農林水産業を犠牲にしない」と明言した。それならば弱体化が進む国内の生産基盤を強くすることが最優先であり、安易な米の輸入拡大は認められない。