広島県世羅町のさいねい農園は、野菜の新たな流通価値の創出を目指し、健康に悪影響を及ぼすとされる硝酸イオンを減らす「ウェルビーイング野菜」プロジェクトを進める。野菜のえぐ味につながる硝酸イオンを通常に比べて25%以上減らした野菜を認定し、農産物の価格転嫁につなげる。県内20戸の生産者が取り組みに参画し、条件不利の中山間地が広がる県内農業の活性化に期待がかかる。
同農園は野菜のえぐ味の根源となる硝酸イオン値に注目し、2024年度から同プロジェクトを始めた。硝酸イオンは体内で還元されると健康に悪影響を及ぼす可能性があるとされ、環境面では地下水汚染などにもつながる。
農園代表で俳優も農家もこなす農家タレント・さいねい龍二さん(43)は、県内農業に懸ける思いは強い。「農地が散らばっていて生産効率の悪いイメージの広島だが、その分だけ野菜一つ一つに手間暇をかけている。広島独自のブランド価値をつくりたかった」と話した。
硝酸イオンの検査は、メディカル青果物研究所(東京都足立区)に委託。圃場(ほじょう)でランダムに選んだ野菜を研究所へ郵送し、デリカスコア(野菜の健康診断)で分析する。年平均で硝酸イオンが通常より25%少ない規定数値内に収まった場合、「ウェルビーイング野菜」に認定。データの蓄積で、品質の安定化にもつなげたい考えだ。
25年5月時点で、県内20戸の農家が合計15品目で認定された。1品目当たり6000円の検査料を25年度まで同農園が負担。数値が足りない場合も、改善に向けたアドバイスや支援も行う。

「ウェルビーイング野菜」に認定された農産物には専用のロゴシールを貼り、消費者に向けて環境への配慮や安全性をPR。認定されると1年間はシールが有効となり、値段の設定は生産者に任せる。現在は広島市内の無印良品広島アルパーク店で販売され、消費者から人気を集める。

24年12月には、広島市内のイオンモールで1日限定の実証試験を行った。通常価格に25%上乗せしてキャベツやミニトマトなどの「ウェルビーイング野菜」を販売したところ、完売して7万円を売り上げた。
24年度から農業者と異業種による新ビジネス創出を目指す県事業の支援対象にも採択。さいねいさんは「生産者の努力を付加価値に変えて、地域農業を守っていきたい。農家の要望があればこの取り組みを全国にも広げたい」と力を込めた。