梵天を使い丁寧に花粉を付けていく。花粉採取用の花摘みと並行したため忙しい春となった(千葉県市川市で)
国産の梨花粉確保へ奔走 「とにかく時間と人手が足りない」
国内有数の梨生産量を誇る千葉県市川市。頭上にほころぶ満開の白い花とは裏腹に、梨園約2・5ヘクタールを経営する松本大佑さん(39)の表情は焦燥感に満ちていた。
昨年、中国での火傷病発生に伴い、中国産花粉の輸入が停止、産地では花粉の確保を余儀なくされた。
迎えた春、焦る産地を翻弄(ほんろう)するかのように低温が続き、例年よりも10日遅い開花となった。
満開の梨の花が咲く松本さんの園地。昨年よりも約10日遅い開花だった
松本さんは花粉採取用の花摘みと並行し、梵天(ぼんてん)で1輪ずつ丁寧に花粉を付けていく。昨年までは自家採取した花粉と中国産花粉を併用していたが、今年は全量を自ら賄うため、アルバイトを増員して作業に当たった。これでも、「まだ自分は良いほう」だと松本さん。「授粉樹を持たない生産者は、もっと作業が逼迫(ひっぱく)しているのでは」と心配する。
花摘みに参加したボランティアは楽しみながら作業を進めた
国産花粉の緊急確保──。この難題に市やJAいちかわは対策を練る。市は3月、緊急で梨の花摘みボランティアを募集。350人を超える地域住民が、産地の危機に手を差し伸べた。
全量を中国産花粉に頼っていたJA果樹部会の荒井一昭部会長は、3月下旬からほぼ毎日、ボランティアの応援を受け入れた。「労働力は息子と2人。手が回らなくて困っていた」と感謝する。ボランティアに参加した市内の団体職員、島田朋子さん(57)は「普段はできない体験。生産者の苦労を思い出しながら、梨を食べたい」と話す。
松本さんが自家採取した花粉
JAでは生産者が持ち込んだ花や葯(やく)から花粉を採取し、翌日に引き渡す。他部署や新入職員も応援に駆け付け、授粉時期は連日フル稼働で作業に当たった。剪定(せんてい)枝から花粉を採取する実証実験にも乗り出し、授粉面積換算で2・6ヘクタール分の1・3キロの粗花粉の採取に成功した。
JAいちかわは花粉を確保するため、剪定枝から花粉を採る実験に取り組む(千葉県船橋市で)
武藤健司JA市川経済センター長は「花粉の確保は来年以降も続く。早めに技術を確立したい」と力を込める。
生産者、JA、行政、地域住民の団結は、夏に実を結ぶ。
(志水隆治、撮影=山田凌)
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