日没後、青に染まる棚田。仕事終わりに訪れ、明日の作業の準備に追われる農家の姿があった(長崎県松浦市で)
長崎県松浦市福島町にある土谷(どや)棚田で、田植えが続々と始まった。水をたたえ、鏡のようになった田んぼは、春限定の光景だ。
土谷棚田は伊万里湾に面した約10ヘクタールの斜面に、400枚ほどが海に向かって広がる。現在は、27戸の農家が「コシヒカリ」を栽培している。
四季を通じ、さまざまな表情を見せる棚田は、写真愛好家などから好評で、年間5000人ほどが訪れる人気の景勝地だ。
耕作者のほとんどは兼業農家で、仕事後や休日を使い耕作している。
田植えをする農家。一枚の田んぼが小さいため大型の機械が使えず作業に時間がかかる
ただ、一枚の面積が小さく大型機械が使えないことや、獣害など、栽培の負担は大きい。近年は耕作者の高齢化などを理由に、離農者が増えている。
「グェグェグェ」
夜になったばかりの濃紺の空を映した棚田に、カエルの大合唱が響き渡る。
田んぼで雑談する永田さん(左)と末永喜一さん。永田さんは「苦労だらけやけど元気なうちはやり続ける」と話す
そこに、1台の軽トラックが止まった。土谷地区の区長を務める永田茂之さん(68)だ。仕事を終え、田んぼの様子を見に来たという。
永田さんは兼業農家として、16アールで米作りを60年以上続けてきた。「もうからないし、大変だけれど、先祖代々守ってきた田を荒らすわけにはいけない」と力強く話した。
(山田凌)