

大分県中津市耶馬渓地区にある食肉工房「ちょろく(猪鹿)」。地域の食材を使った料亭を営む大江龍馬さん(72)と、工房で働く吉森尊史さん(56)が、わなにかかった鹿を1時間半で枝肉にした。ちょろくは、学校給食用にジビエ(野生鳥獣の肉)を提供する、大江さんが建てた危害分析重要管理点(HACCP)認定施設。ここから大分はジビエ給食の国内先進地へと発展した──。


担当者や栄養教諭は驚き、判断をためらった。PTAの保護者らも「臭くないですか?」「安全は?」と不安を口にした。大江さんは言った。「ちゃんとした方法で処理すればおいしいですよ」
大江さんは試食会を重ねた。猟師や食肉業者でつくる大分狩猟肉文化振興協議会も設立、普及に努めた。試食会に訪れた当時の市長(80)が「高タンパクで低カロリー。これは山の資源だ」と語り、給食に採用された。
同年秋以降、市教育委員会が全小中学校でジビエ給食を始めると、鳥獣被害に悩む周辺自治体にも広がった。県は18年、ジビエ給食を推進する補助制度を新設。県内小中学校の半数にまで増えた。

中津は福沢諭吉の故郷。「空想はすなわち実行の原案」の精神が受け継がれ、学校給食にも生かされている。