「ゴッ、ゴツン」
約1トンの巨体が角をぶつけ合う鈍い音が、歓声にかき消されることなく闘牛場に響く。川上哲也さん(48)が、愛牛「天神」の立ち合いを真剣なまなざしで見つめていた。
川上さんは20年前、夕方の牛の餌やりを終え、入浴中に地震に遭った。「ドォン!!」と突き上げる衝撃の後、大きな横揺れが続き、とっさに家を飛び出し難を逃れた。その後、家は土砂崩れで全壊した。
同地区は危険区域となり、市街地での避難生活を強いられたが、川上さんら小千谷闘牛振興協議会のメンバーは、山中の獣道を使って毎日2時間以上かけて牛舎に通い世話を続けた。牛は約2週間後、長岡市にある家畜市場に一時避難したという。
震災前は300戸ほどあった同地区は、震災後は150戸まで半減した。しかし、牛を飼っていた家のほとんどは戻り、牛飼いを続けた。現在は共同牛舎の整備やオーナー制を積極的に導入するなど、保存活動に力を入れ、震災前と同じ水準の約40頭を飼育している。
川上さんは「市街地に移り住む選択肢もあったが、角突きが好きで、牛飼いをするためにどうしても戻りたかった」と振り返る。
「地域の復興は牛の角突きから」
震災後、同会が掲げたスローガンだ。前会長の間野泉一さん(72)が先頭に立ち、震災の爪痕が残る8カ月後に、角突きを再開させた。
「仕事も家もままならん中で角突きをすることに抵抗はあったが、しょげてても仕方ねぇ」と行政との調整に奔走した。市内の白山運動公園に、仮設の闘牛場を手弁当で設営。再開した角突きは、避難生活に疲れた地域住民を元気づけた。
20年がたち、震災当時を覚えていない若い会員も活躍し始めた。角突きを見終えた間野さんは、「今場所も良かったなぁ」と満足そうな笑顔を見せた。
(山田凌)