キャベツが記録的高値を付けて、世間の注目を集めている。物価高の象徴のように扱われ、テレビでは「財布に厳しい」と嘆く消費者の声が伝えられる。しかし、農家は必ずしも恩恵を受けておらず、苦境に陥る流通業者もいる。高値の裏側、逼迫(ひっぱく)を招く業界の構造と対策を探る。
27日、食品スーパーの東急ストア中目黒本店(東京都目黒区)では、キャベツが1玉580円(税別)を付けていた。品薄で狭めた棚は、少しでも値頃感を出すため半玉・4分の1カットが主体となっている。

昨秋から続く卸売市場での相場高騰が、ようやく峠を越えたキャベツ。しかし、店頭では依然、高値を保つ。農水省によると、1月中旬のキャベツ小売価格(全国470店舗を調査)は1キロ553円。2010年の調査開始以来、最高値を更新した。
東急ストアは基本、野菜は1週間前に翌週の販売量、売価を決める。売価は相場を参考にするが、必ずしも連動はしない。「1玉298円を超えると一気に消費が離れる」(青果バイヤー)ためだ。相場が上げても1、2週間は我慢して売価を据え置き、落ち着いてから利益を調整する。
しかし、高騰が数カ月にも及ぶとこうした利益の調整がきかず、特売企画や売り場づくりも苦心する。バイヤーは「これだけ販売の常識が通用しない年は初めて」と困惑顔だ。
キャベツの大産地として知られる、愛知県の渥美半島。田原、豊橋両市で5ヘクタール生産する松井成好さん(51)は、収穫間近の畑を前に安どの表情を浮かべた。「徐々に生育ペースが回復してきた。ようやくだ」。天候不順に振り回された日々に、思いをはせる。
今期は出足からつまずいた。育苗期は猛暑で発芽が安定せず、定植が10日遅れた。8月末には台風接近に伴う豪雨・長雨で、定植間もない苗は根傷みが多発。その後もハスモンヨトウなど害虫や黒腐病、冬は干ばつや低温による肥大遅れと、悪条件が重なった。
就農30年の松井さんも、想定外の作柄に悪戦苦闘。「雨が極端だから、肥料が流れて根が傷む。追肥しても効果が表れない」と気をもんだ。JA愛知みなみによると、JA常春部会の出荷実績(10~12月)は計画を3割以上下回った。

高値相場にも「その分収量が落ちている」と松井さんの表情は晴れない。同JAによると、23年時点で肥料価格は5年前から33%、農薬は12%上昇。「悪天候で施肥や農薬散布の回数が増え、一層のコスト増は確実」(青果農産課)という。過去には高値の後に一転急落した年もあり、反動安の懸念も募る。
需給逼迫の要因は、不作に加え、簡便性から消費を伸ばすカット野菜の流通にもある。東京の青果卸は「カット業者や飲食店と契約する産地が不作で契約分を供給できず、カット業者らは採算度外視で市場調達に走り、相場がつり上がる」と、構図を説明する。