
ヒット商品誕生のきっかけに

商品の中でトップクラスの売上高を誇る商品は、ノンアルコール梅酒「酔わないウメッシュ」。豊作年に農家の収入確保のため、多めに仕入れた梅から生まれたヒット商品だという。
開発したのは、10年。豊作が続いた05~08年ごろ、梅の貯蔵タンクに余裕がなくなってきたため、梅を凍結保存したことがきっかけだ。梅は凍結させることで濃い果汁を抽出できることにたどり着いた。希望小売価格142円(税別)と比較的安価でありながら、今では販売の柱となる。
多角展開するチョーヤ
同社の事業は多角的だ。19年に東京・銀座に、梅酒カクテル専門店「The CHOYA 銀座BAR」を開店させた。ロックやソーダ割りなど主要な飲み方に加えて、本格梅酒「ザ・チョーヤ」を使用した100種類以上のカクテルを開発した。開店当初は順調な滑り出しだったが、コロナ下は販売が苦戦。バー需要の低迷に危機感を抱き、梅酒かき氷や梅酒クリームソーダなど、バーならではの梅酒デザートで商機をつかんだ。今では年間約2万人が来店し、売り上げも好調という。
農家の生産を後押し
同社が大切にするのが、原料梅だ。年間計画で約4000~6000トンの国産梅を漬け込むが、その8割以上がJAわかやまの梅「南高」だ。仕入れる梅は、収穫時期に手で取る青梅と、完熟して自然落果するのを待つ完熟梅などがある。
梅の仕入れを担当する有福課長は、「梅は豊作と不作の差が大きく出る農産物」という。豊作年には平年の倍以上仕入れることもあれば、不作年は4000トン弱に抑えることもある。

近年、国内の梅産地は異常気象により不作に見舞われている。農水省によると、24年産の全国の収穫量は前年比46%減、14年比は53・7%減少し、過去最低の5万1600トンだった。今年は主産地の和歌山で甚大なひょう害が発生し、県内面積の9割で被害を受けた。
完熟梅を固定で仕入れ
同社はひょうなどで傷の付いた梅も仕入れることで、農家の生産を後押し。「傷の付いた梅であっても、熟成した梅酒の味に大きな違いはない」とする。JAわかやま紀南地域本部梅部会の岩見健生部会長は、「ひょう害で、25年産の収入が平年の7割にまで減る見込み。チョーヤ梅酒が完熟梅を固定で仕入れてくれ、確実な収入となり、ありがたい」と堅い信頼関係があった。
効率性を優先すれば、食品メーカーは在庫を抱えたくない。原料の農畜産物は必要最小限の仕入れに抑えるほうが経営として望ましいだろう。しかし農家の高齢化や異常気象などが多発する今、それだけで高品質の国産原料を確保できなくなった。企業活動を継続する上で、産地の存在は欠かせない。優良産地と付き合うには、豊作でも、凶作でも支え合う関係性が必要だ。メーカーと産地は運命共同体と思える。
(廣田泉)