
男性は長崎県でアスパラガスなどを27アールで栽培する農家。課税売上高が1000万円以下の「免税事業者」に該当する。消費税の納税は免除されているが、消費税8%を上乗せした価格で販売できる。これは「益税」とも呼ばれる。
食料品の消費税率がゼロ%になれば上乗せできなくなる一方、資材などの購入時には変わらず10%の消費税が生じる。
男性は資材価格が高騰する中、益税分を当てて、なんとか利益を確保できていた。「食料品の消費税率がゼロ%になれば、単純に8%の減収。農家だけが割を食うことにならないか」と話す。
売り上げダウン 手取りも少なく
男性が抱える一連の懸念を専門家はどうみるのか。税理士で農業経営コンサルタントの森剛一氏に見解を求めた。「免税事業者の農家は消費税分の上乗せがなくなり、売り上げが減る。一方、生産資材などの消費税は変わらないので、手取りが減る」
森氏はそう解説する。特報班にメッセージを寄せた男性の懸念は当たっていた。

2020年の農林業センサスによると全国の農業経営体数は約107万戸。そのうち免税事業者に該当する経営体数は、全体の8割超とみられる。
免税事業者に消費税納税の義務がないのは、中小規模だと納税負担も大きく、事業の継続に負担軽減の措置が必要だからだ。
小売りや流通業 新たな負担発生
影響は農家以外にも及ぶ恐れがある。森氏は食料品の消費税率がゼロ%になれば、会計システムの変更に伴う改修にもコストがかかり、「小売店や食料品の流通業者にも負担が生じる」と指摘。さらに直売所やネット販売で農家自ら値決めする際、減収分を上乗せする場合もある。「最終的に、値上げという形で消費者にしわ寄せがいく可能性がある。農家だけでの問題ではない」(森氏)との見解を示す。消費税を巡る議論の在り方として、森氏は「生活上の負担軽減だけでなく、中小農家を含む事業者の継続も念頭に置いて議論すべきだ」と強調する。
(高内杏奈)